2007/12/31


しましま忘年会



 忘年会をやりますので、指定の日、同封した地図の場所にお集まりください。
 参加費は無料ですが、何か一品、飲み物か食べ物を持ってきていただけると助かります。
 皆様のご参加、お待ちしております。

 双翼の元にそんな招待状が届いたのは、今年も残り数日となったころだった。共にいる黒翼白翼らに相談をしようとしたら、二人ともすでにその日は用事があるらしく、むしろ別行動の許可を求められた。
 せっかくの年末だ、二人もやりたいことや会いたい相手もあるのだろう。
 そう思った双翼は、二人の申し出を快諾し、自分は一人で忘年会に参加することにした。
「しかし…これは一体どこから来たんだ? 差出人は不明だし…何で旅先の宿に、私宛で届くんだ?」
 首をかしげながらも、なぜか体は自然と目的地に到着した。妙な気分になりながら、双翼はたどり着いた飲み屋の戸を開けた。
「あっ、やっと来た双翼!」
 そう言いながら赤い鎧の武者が駆け寄ってきた。その人物を見、双翼は硬直する。
「さ……散斬角!?」
 そこにいたのはつい一話前に別れたばかりの散斬角だ。何か二人はしんみりした感じに別れたのに、それはないだろう!
 双翼は目を丸くしながら店内を見回した。そして、頭の中が真っ白になる。
「あっ、どうも双翼さん!」
 活飛百合が手を振った。
「あー、どーりで足りないと思った。」
「一番最後だよ、双翼。」
 漣月死愚裏不隠もいる。
「兄貴!?」
「あー何だ、あんちゃんも呼ばれてたんだー。」
 一旦別れたはずの黒翼と白翼。
「チッ…全部そろいやがった…」
 烈刀丸が舌打ちをする。
「おぉ、また一人当たりの璽無饅の分け前が減るのう。」
 璽無坊が自分のそばにある重箱から璽無饅を取り出して数え始めた。
「お久しぶりですね。あの時はどうも。」
「お頭、そんな呑気な…」
 邪法丸を始め、無法党も全員そろっている。
「あ? 双翼ぅ? ほっとけどーせ関わるとまたやられっから!」
 なぜか角鋼丸超髪組が違和感一切ナシにたむろしている。
「…。」
 一人黙ってロック用の氷をかじる殺華面
「メーシッ! メーシッ!!」
 剛妖丸が箸を両手に机を叩いている。
「うわっ、やっぱ来たよ!」
 殺駆魔神偽皇帝だ。
「ぎょろーっ。」
 特設の水槽に烏賊参枚
「ぎょろああぁっ!」
 ゴオォ! と空気を震わせながら別の水槽で大王烏賊参枚が叫ぶ。
「キュオアアァエェェェッ!!!」
 音だか声だか分からないが、発信源は床から直接生えた花劫拉
「…って、こいつら妖怪じゃん!!」
 全員見終わってから気づいて突っ込んだが、特に気にしている人はおらず、当の妖怪たちも今のところ誰かに危害を加えているような様子はない。
「な…何がどうなって…」
 双翼は一周見渡し終えて、視線を初期位置へと戻した。その過程、先ほどは見落とした人物に目が行く。
「ん、何か用か?」
「文句でもあんのかよ?」
 天翼神魔翼神、それに。三人そろって黒翼・白翼と相席を決め込んでいる。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 何でいるんだ? 誰か突っ込まないのか? つーかコレ大丈夫!? あっ、散斬角もいるのに、気づかないのか!? つーか黒翼と白翼――ッ!!
 思考がぐるぐると回って言葉が紡げない。とりあえず双翼は絶叫するしかなかった。
「最後に来たクセにうるさいぞ!」
「あんちゃんも一緒に座ろうよ。」
 魔翼神と白翼が普通に双翼にかまってきた。天翼神は魔翼神と瘴に突っかかるでもなく、黒翼も平然とし、さらに双翼の横で散斬角まで笑っている。活飛が席を立って歩み寄り、肩にポンと手を置いた。
「双翼さん、大丈夫。ここ歴代武者インタビューとおんなじようなモンだから。」
「同じ…?」
「秘密の亜空間。」
「その設定貫き通すんだ!?」

 散斬角にうながされるまま、双翼は黒翼・白翼、更に翼神二人と瘴のいる席に着いた。険悪な様子は一切ないが、どうも落ち着かない。
「あんちゃん何飲むー? 僕と黒翼はジュースだけどー。」
「“ジュース”って……」
 ジュースを飲んでいることに不満は何もない。むしろ未成年がきちんと酒を飲まずに過ごしていることを評価してやりたいくらいだ。しかし、「戦国伝」感がまるでない。
「まー……コレが亜空間ってことか…。」
 「歴代武者インタビュー」の特別編に参加してしまった過去もあり、双翼は違和感を頭の中でかき消した。
「じゃ、焼酎水割りで。」
「双翼が焼酎!?」
 魔翼神・天翼神がハモって言った。
「な…何だよ?」
「いやー、本編のイメージでいくなら普通に武者らしく日本酒とかさー。」
「カシスソーダとレモンサワー飲んでる奴らに言われたくないな。」
 双翼は、魔翼神と天翼神の飲み物を見ながら返した。
「別にいいだろう、せっかく設定無視できる場なんだから。」
「マジメな双翼が設定無視とか言った!」
「せめて性格は貫き通せよ!」
「お前らこそ性格貫け!!」
 双翼は深くため息をつくと、運ばれてきた酒に口をつけた。
「…しかし…ヤケに菓子類が多くないか?」
 双翼は目の前の机の上を見、言った。子供が同席しているのだから菓子があってもおかしくはない。しかし、一応酒の席でもあるはずだ。
「あー、招待状に『何か持ってこい』ってあったでしょ?」
「百合サンとか璽無坊とか散斬角とかー、あと烈刀丸も、何かお菓子ばっかり持ってきたの。」
 黒翼と白翼が、「コレは百合」「コレは烈刀丸」と指差しながら説明した。そういえば彼らは、菓子作りか菓子の消費が好きだ。
「なるほど……しかも、各人が持ってきた量もかなりあるんだな?」
 双翼が辺りを見回しながら言った。どの席にも、それなりの量の菓子が並べてある。散斬角や烈刀丸がいる席はだいぶ消費されているようだったが、皿の大きさで初期の量の想像は容易だ。
「あー双翼、そういやお前は何持ってきたんだ?」
「ん? あぁ、忘年会と聞いたので一応酒を…。てんよ……いや、翼神、お前たちは?」
 双翼は、禁句を避けて聞き返した。
「私も酒だ。せっかくの機会なのでとびきりのものを。」
「俺はカニだ。」
「カニだと!?」
 天翼神が机を叩きながら立ち上がった。
「な、何だ? 手頃なものがなくて海から捕ってきたが、不満か!?」
「捕ってきたのかよ!」
 黒翼が突っ込んだが、天翼神は聞いていない。
「そういう問題じゃない! 私の前にカニを出すな!!」
「はぁ!? 何言い出すかと思えば…何だ、お前カニが嫌いなのか? 見るのも嫌か? ハッ、ガキのわがままじゃあるまいし!」
「何だと!? 聞き捨てならん!!」
「なーにが『聞き捨てならん!』だよ! カニっつったらけっこういい食材だぜ? こいつに謝れ!!」
 魔翼神は天翼神の顔の前にカニ(死[ボイル]後約一時間)を突き出した。それを天翼神は抜刀してはじき落とした。
「私に触れるな汚らわしい!!」
「てっ…テメェ!! 忘年会だからと思って平静でいたが、もうガマンならねェ!!」
 額に血管を浮き上がらせて、魔翼神も抜刀した。
「覚悟!!」
「やめろ――――!!!!」
 二人の間に、双翼が割って入った。
「お前らなァ!! いちいちくだらんことで争うな! 忘年会だぞ!? 気に入らない食材は食わなきゃいいだろ! あーもうめんどくさい!! もうお前らどっか行け! それぞれここと別の席行け!!」
 双翼は二人の翼をそれぞれ片手でつかみ、力ずくで席から放り投げた。そして床に突っ伏した二人を正座させ、説教を始める。
「あ…兄貴スゲー…」
「仮にも天界武者と魔界武者でしょ…?」
「双翼でもキレるんだなー…」
「あ、瘴がしゃべった。」
 今まで静かにしていた瘴の急な発言に、子供二人が反応した。
「…いや、しゃべるんだ、って…あたりまえだろ。」
「いやさー、瘴と同じように半分だけ仮面つけてる奴がいてねー。」
「そいつしゃべんないんだよー。」
「はぁ?」
 瘴はあきれて二人から視線をそらした。すると、自分と同じ半仮面の男と目が合った。殺華面だ。全く目をそらさないところを見ると、どうやらもっと前から見られていたらしい。
「……何だよ?」
「………。」
 殺華面は立ち上がり、瘴のいる席によって来た。そして双翼が翼神二人を投げ飛ばしたため空いた席に、さも当たり前のように座る。そして再び瘴をじっと見た。
「……何?」
「………。」
 殺華面は持ってきていたらしい自分のグラスを瘴に近づけた。
「…乾杯?」
 殺華面は黙ってうなずく。瘴はどうしようか迷ったが、とりあえず自分のグラスを取りそれに応じた。
「…乾杯。」
「……。」
 コツン、とグラスをぶつけると、殺華面は黙って酒を飲みだした。
「……えーと…オイ主人公陣、お前ら何とかし…」
 困った瘴は目の前の黒翼・白翼や双翼を見た。しかし、いつの間にか三人とも、更には説教をされていたはずの翼神二人まで、別の席へと移っていた。
「ちょ…俺だけ残されても…」
 すっ、と瘴の視界に何かが割り込んできた。割り込んできたほうを見ると、殺華面が枝豆の乗った皿を差し出している。枝豆を一つ取ると、殺華面は皿を手元に戻し、自分の分を取って食べだした。
「…俺と飲みたいの? …何で? …答えろよ、オイ…」
 それに殺華面が応じる様子はなかった。

「やっぱね、大事なのは甘さの加減だと思うのよ。」
「いや、俺は甘いに限ると思うね!」
「私は甘さが全てじゃないと思うなぁ。」
「わしは舌触りも重視したいのう。」
「……何やってンの?」
 璽無坊目当てで近づいた白翼が聞いた。その席にいるのは百合・烈刀丸・散斬角、それに璽無坊だ。
「あー、白翼。実はな、今菓子について各々の意見を…」
「俺は絶対菓子は甘くあるべきだと思うんだよ!」
 散斬角の説明を、烈刀丸の自論がさえぎった。
「白翼、あんたはどう思う? あたしは菓子を作る立場から、やっぱバランスって必要だと思うのよ。璽無坊サンはレベル高いからもっと細部まで言ってくるんだけど、とりあえずまずはバランスじゃないかしら。」
「僕に言われても…」
「白翼は甘くない菓子も好きだよな? 塩キャラメルなんて、甘いのにしょっぱくて、絶妙じゃないか?」
「何で散斬角が塩キャラメル知ってンの。」
「いや亜空間の出来事だしね。」
 白翼が普段どおりの的確なツッコミをした。しかし散斬角は引っ込まない。
「普段の知識や文化はどうでもいいんだよ、今大切なのは菓子のあり方!」
「だーかーらっ、俺はとにかく甘くないといやだっつってんだろ!?」
「あーもーうっさいわね烈刀丸。そんなに甘いの食べたかったら角砂糖かじってなさいよ!」
「角砂糖も美味いけど菓子じゃねーだろ!」
「いや、角砂糖かじるのは否定しとこうよ。」
「甘いだけなら菓子じゃなくて原料でいいでしょーよ。」
 白翼が再び突っ込んだ。しかし、誰も聞いていない。それどころか論議は拡大していく一方だ。
「とりあえず状況を整理しようぜ。今話の中心になっているのは甘い菓子についてだ!」
「はい、質問。」
「何だよ散斬角!?」
「ざらめせんとかも存在するんだから、菓子全般にまで話を広めたほうがいいんじゃないのか? チョコレートだって基本的に甘いものだけど、カカオ99%とかは完全に苦い。」
「そんなこといったらキリないじゃない。もういっそ甘い和菓子限定にしちゃったほうがいいんじゃない?」
「そうかのぅ、わしゃせんべいも好きじゃが。」
「あーもー璽無坊、話しややこしくすんじゃねーよ!!」
「……。」
 白翼はそっと、席を外した。

「ザリガニはさぁ、食べ物じゃないと思うんだ。」
「ぎょろっ?」
「ホラ見なよ、大王なんてマグロ持ってきてるよ? マグロ。」
「ぎょろぉッ。」
「そこ、独り占め宣言しない。」
「……何やってんだ……?」
 忍舞が死愚裏不隠に聞いた。そこは烏賊参枚と大王烏賊参枚の水槽付近だ。
「ん? あー、何持って来たか話してンの。ちなみに俺スイカ。」
「こ、この時期によくあったな…。……ってそれより、お前この妖怪どもの言葉分かるのか?」
「魔獣だからね。大抵の生物の言葉は分かるよ。」
「スゴイな。」
「でさー、烏賊参枚がザリガニ持ってきてんだよ。ないよねー。」
「え?」
「は?」
 忍舞が首をかしげたので、死愚裏不隠が更にそれに首をかしげた。
「何? 何で今『え』って言った?」
「いやー、食おうと思えば食えないか? ちょっと海老みたいな味するんだが。」
「…食べたことあんの?」
「…忍軍抜けてから無法党入る前までに、ちょっと厳しい時期あって…。」
「大変だねー、漣月と一緒じゃん。」
「あ、漣月は食べたんだ!?」
「ぎょろっ。」
 親しげな視線が、上から忍舞に注がれた。
「ん? コイツ何だって?」
「友よ! …って。」
「…烏賊参枚に友って思われてもなー…」
「ろろっ。」
 少し空気が震えた。大王烏賊参枚だ。
「『貧相なヤツめ』って言ってるけど。」
「何だとコラァ!!」
「ろっ。」
 バシーン、と気持ちのいい音がした。武器を構えた忍舞に、大王烏賊参枚が平手(?)打ちを浴びせたのだ。忍舞は一瞬体が浮き、そして壁に叩きつけられた。
「ぐはっ……」
 ずるり、と壁を沿って忍舞が落ちた。動かなくなったため、それを死愚裏不隠と烏賊参枚が見下ろした。
「あー…お気の毒。」
「ろー。」

 双翼はどこか翼神が近くにいない席は空いてないかと周囲を見回した。すると、漣月が一人で酒を飲んでいるのが目に入る。
 そういえば、前に漣月がウチの道場に入ってきたことあったなー…。
 インタビュー特別編で何事もなかったかのように話していたことを思い出し、今さらながら苦笑いをした。
「漣月、横いいか?」
「あー、別にどーでも。死グリどっか行っちまったし。」
「はは。…では失礼。」
 双翼は漣月の隣に座り、机の上にあるモノを適当につまみながら飲み始めた。横の漣月は初めのうちは先ほどのままあたかも一人でいるように飲んでいた。だが少ししてから双翼は、いつの間にか漣月が自分をじっと見ていることの気づく。
「私の顔に何か付いてるか?」
「いや……どっかで見た顔だなーと……」
「お前今さら…インタビュー番外編3で会ったろう?」
「違うって、別の誰かに似てんだよ。」
「へぇ、私の家族にでも会ったか?」
「いや家族…かも知れねーけど……まーお前より子供っぽいかな。」
「そうか…じゃあ家族じゃないな。家族の中では私が最年少だ。」
「そっかー。お前みたいに髪結ったガキなんだけどさ、コイツがむかつくヤツで。」
 双翼は苦笑した。髪を結っているだけで似ているとは、と。
「ガキのクセにいっちょ前に剣振ってさ、俺に挑んで来たんだよ。」
「へー。」
「ま、魔界武者のオレ様にかなうはずないがな。あんまりにもヌけてるんで、殺さないでおいてやったぜ。」
「お前ヤなヤツだな。」
「あーそうだ、紫の手ぬぐい頭に巻いてたっけ。けっこうでかい家に住んでるみたいで。」
「ん?」
「道場もあって、口先だけは立派だったな。」
「……。どこの街?」
「金刃雷都とかいったか? 破悪民我夢の近く。」
「…。」
 双翼は理解した。この話の半分は偽りであると。そして、漣月が今見ている自分の顔は、どこかで見た顔ではなく、その見たもの本人だと。
「漣月ー。」
「何だ?」
「知ってるか? 天馬の国こと日本の今年一年を表す漢字は、『偽』なんだぞ。」
「へー、そりゃ知らなかった。」
「最後の最後でお前もそれにならう形になったぞ。」
「は!? え、な……ンなワケねーだ、ろ! あ、あはははは。」
「お前ウソつくの下手だな。」
「えー? だ、つ、ついてねっつの! あ、サンマ食う? サンマ! 俺サンマばらすの超うまいぜ!」
 漣月はあたふたしながらサンマの塩焼きと箸を取り、宣言通り見事に解体を始めた。

 剛妖丸が撃斧に向かって巨大な皿を突き出す。
「オカワリ!!」
「キュオォッ!」
「お前ら自分でとって来いよ。」
 撃斧は剛妖丸の手を払い、自分の食事に戻ろうとした。しかし、今度は皿付きの花劫拉の触手が横に伸びてきた。
「…剛妖丸よー、俺お前のことよくわかんねーけど、とりあえず植物妖怪と大食い対決ってなくね?」
「ウルセェザコガ。イイカラツギヨコセヤ。」
「何でお前片言でカツゼツいいンだよ。」
「シュー…」
「げっ!」
 花劫拉が口から唾液(正確には消化液)を垂らし始めた。撃斧も花劫拉が恐ろしい肉食妖怪だと知らないわけではない。観念して料理の大皿を取りに行った。
「シカシオマエ、ヤルナ!」
「キュオォッ!(オマエコソ!)」
「何か通じてるッぽい……」
 撃斧は違う次元に一人だけトリップした気分になった。

「やっぱ双翼とか、あのヘンの奴らは分かってない!」
 ビールを大ジョッキで一気飲みしてから、角鋼丸が叫んだ。
「その通り!」
「こだわりってモンがないからいけねーんだ!」
「スカしたカッコで、主題が全く見えてこねェ!」
 同じく大ジョッキをあおった超髪組が言う。
「ましてや主題に沿って努力している最中のものを馬鹿にするのが許せん!」
 本編よりも一段とゴテゴテ感が増した偽皇帝も続いた。五人は「こだわり同盟」としてここに結束を固めていた。一般的にそれは、酒に酔って調子に乗ったバカ、と呼ばれる。
「角鋼丸はスゲーよな、どんなにバカにされても『肩』ってこだわりは捨てねーんだろ?」
「あたりまえだ! むしろ、バカにする奴らのほうが間違ってる! …偽皇帝も、偽物と言われようが黒魔神闇皇帝への憧れは変わらないんだろ?」
「あぁ。第二の黒魔神闇皇帝を目指すには、コレくらいじゃめげていられねェのさ! …しかし、俺には具体的な目標物があるからまだ進む方向が自分で分かりやすい。それに比べて超髪組…お前らの独自のセンスには脱帽だよ。」
「あぁ、この髪と服か?」
「そりゃ、共通の美意識の中にありながら、それぞれの個性を引き立てるのは大変さ。」
「でもだからこそいいことも多いぞ!」
 五人はそう言って笑い合った。もはや突っ込む気力も失せる。何か会話に文章挟むのも面倒なくらいだ。
「…オイ、今何か変じゃなかった?」
 角鋼丸が気づいた。
「え、そうだった? マジかよ?」
 角鋼丸の発言により、残りの四人も何かを感じてキョロキョロ辺りを見回した。
「まーいいじゃねーか、そんなのほっとけよ。…しかし、こだわりって言ってもやっぱそのこだわり自体にきちんとしたセンスがないとなー。ぶっちゃけ『肩』ってどうよ討流義主?」
「ん? あー、確かにちょっとイミフ(意味不明)だよなー。」
「肩を酷使する理由はないわな。」
「なっ、何だと!?」
 角鋼丸がジョッキを机に叩きつけた。
「じゃー俺も言わせてもらうぞ! お前らのその髪、全く意味ねーじゃん! のりでわざわざ固めて、傷むだけだろ! 服も下手なくせに加工するから、それきっとすぐボロボロになるぜ!」
「い、言わせていけば!」
 叉殺緋威が立ち上がった。
「俺らより偽皇帝だろ! 憧れとか何とか言ってるけど、あんなひどい仮装じゃむしろ侮辱だろ! しかも技名とか武器名がダジャレって、ありえねー!」
「なっ…何で急にそうなるんだよ! 俺たち『こだわり同盟』だろ!」
 妖怪のクセに偽皇帝がその場を落ち着かせようとする。きっと少し傷ついて反論できないのだろう。しかし、一度熱くなったチンピラどもに制止は効かない。
「なーにが『こだわり同盟』だ! お前らなんかと一緒にして欲しくないね!!」
「こっちだってお断りだ!」
 角鋼丸が、討流義主が、覇鴉が、叉殺緋威が、偽皇帝が、次々と席を立っていく。最後に残ったのは食べかけの料理と飲みかけの酒のビンだ。
「…やっぱチンピラってバカだなー。」
 密かに物陰でこそこそしていた幻魔が、空いた席の真ん中に座った。
「和を乱した発言が五人の中の誰かの発言だと思い込んで…俺だっつーの。ガブガブ酒飲むからそんなのも分からなくなンだよ。」
 幻魔は残っているもので一番高そうな酒を選び、自分のグラスに注いだ。
「…やっぱこだわるなら高級感だろ。」
「腹黒ー。」
「うお!?」
 幻魔が驚き飛びのくと、そこには更に物陰で一部始終を見ていた白翼がいた。

「武道とは日々の鍛錬だ!」
「そうスね。」
「武道とは精神の鍛錬でもある!」
「おっしゃる通りで。」
「武道の稽古後の食事はうまい!」
「はぁ…。」
「聞いてるかね黒翼君! さぁ、君も飲みたまえ!」
「いいっス、未成年だし…」
「こういうときぐらいいいじゃないか!」
「いらないってば。あーアレ、大人になるまでガマンするのが精神の鍛錬。」
「おぉそうか、若いのに素晴らしいな! では私だけ飲んでスマンが、話を続けようか!」
「それもいい……」
「それも良いか、よしよし、続けよう!」
「そっちの『いい』じゃなくて…」
 黒翼はうんざりとしてそっぽを向いた。相手はあの砕武。頭の足りない無法党党員だ。たまたま砕武のいる席においしそうな料理があったため座ったのだが、酔った砕武がこの有様だった。
「酒飲むとやたら語る人っているらしいけど、普段まともに会話が成立しないヒトでもなるんだなー…」
「武道とは武道家の植物だ!」
「それ植物のブドウの話…?」

「砕武はですね、酔うとやたらと語りだすんですよ。しかも知識はないから言いたいことはまとまらないし、何かカオスだし。すごいんですよ。」
「へー。」
 邪法丸の言葉に、活飛が相槌を打った。
「…って、俺が聞いてンのはそーゆーんじゃないんだって。最近の無法党について聞きたいの!」
「一番最近の話ですけどねェ。ホラ、あそこに。あ、幻魔は一番高い酒ばっかり飲みたがりますよ。」
「だーかーらっ! 個人の最近じゃなくて、無法党自体! 本編で散っちゃったっぽいけど、実際どうなの? 合流したの? けっきょく会えずに別々の人生歩みだしたの!?」
 ふぅ、と邪法丸がため息をついた。
「そんなの、ここで言ったらつまらないでしょう? 本編で明かされるの待っててくださいよ。」
「使い捨てのサブキャラじゃ描かれるかどうか分からないじゃん!」
「あなた、使い捨てと言いました?」
 邪法丸の目がギラリと光った。
「あなたは『歴代武者インタビュー』で出番があるから気づいていないかもしれませんが、あなたも私も、『翼神編』本編に出ていたのはほんのわずかですよ? むしろ、双翼たち三人と、しばらく一緒にいた散斬角…彼ら以外はみなサブキャラです。つまりあなたの仮説を鵜呑みにするなら、あなた自身も使い捨てなのですよ!!」
「!!!」
 活飛はショックを受けたようで硬直した。
「…ですが活飛、残念と言うべきか幸いと言うべきか、あなたの仮説は間違っています。」
「え…?」
「よく本編を御覧なさい。たかがチンケな不良・角鋼丸が二回も出ましたよ? ウケ狙いのような妖怪・烏賊参枚…前回それの強化版が登場しました。そして何より…」
「何より…?」
「ギムは自作キャラ大好きな親バカ! しかもかなりのサブキャラ好き!! 『インタビュー』を思い返しなさい、なぜ司会者がオリジナルキャラで、しかもそのオリジナルキャラを更にオリジナルキャラが質問攻めにする番外編が生まれたのですか! なぜマイナーなキャラなのにテーマに合ったからってゲストに呼ばれるのですか! ついでに言えば、けっこうマイナーそうなゲーム『機動武者大戦』の、敵の、しかも更にマイナーな副官を、なぜ主人公にして小説を書くんですか!!」
「そ…そうか…そうなのか!!」
「そうです、わかったでしょう? つまり、せっかく本編に出したキャラクターを、せっかく生まれた気になるその後を、どうして放っておくと言うのです! 本編が無理なら番外編でも作りますよきっと!」
「そうだな!」
 活飛の確かな同意を得、邪法丸は満足そうに笑みを浮かべた。
「…と言う訳で、私たちのその後は『天魔翼神編』が進むのを待っていてくださいね。」
「そうするよ。じゃ、『宿命の相手はお互い別にいる』って言葉の意味もいつか判明するんだな!」
「………。」
 邪法丸の表情が少しこわばった。
「あれ? どうかしたのか?」
「…そこは謎のままかも。」
「はぁ!? 言ってることと違うじゃん!」
「だーって、そうしないと『烈神亜流』『邪神亜流』『紅爆亜闘術』の『亜』の字の不思議感がなくなっちゃうじゃーん?」
「変な口調使ってごまかすなよ! 合わないよ気持ち悪いよ!! つーか『紅爆亜闘術』って、やっぱ剛妖丸も関係あンの!?」
「あー、何のことですか? 全く記憶にございません。」
「コラァ―――!!」

「やっほ―――!」
 紫鎧の少年武者が、勢いよく入ってきた。ちょうどどこも酔いが回ったり話が盛り上がっていたりしていたところで、不意を突いたその声は一瞬の静寂を生んだ。
「だ、誰?」
 一番近くにいた活飛が問いかけた。
「オイラ翼雷。天宮の武者。この間『天魔翼神編』にちらっと出て次回に続いたんだ!」
「そんなのも参加するんだこの忘年会!」
「まーね。タイトルの『しましま』の意味を少し考えるといいよ。それより、活飛、百合、漣月、死グリ! それと双翼、黒翼、白翼! 用があるからちょっと来てー。」
 翼雷はそう言いながら指名した七人を手招きをした。
「ちょっと待て、私は?」
 散斬角が挙手する。
「散斬角はいい。今一行にいないから。」
「えー。」
 一人ブーイングをする散斬角。それを無視して翼雷は七人を外に連れ出した。


 七人と翼雷は忘年会の飲み屋の隣の建物に入った。そこには定員分の机とイスが用意してあり、更に飲み物と菓子もある。
「テキトーに座ってー。」
「…翼雷、一体何なんだ? つーか、お前そーゆー性格なんだな。」
「いやいや、オイラ本編にほんのちょっとしか出てないからさ、細かい設定はまだ不明じゃん? だから代役。」
「何の?」
「んー、司会。」
 全員が座ったのを確認すると、翼雷はどこからかホワイトボードを引っ張ってきた。
「しましま反省会ー。」
「え!?」
「今年の『ストライプ』の更新内容の中で、特に『歴代武者インタビュー』『天魔翼神編』『魔界武者漣月参る!』について反省会をやりたいと思いまーす。」
「ちょっと待ったー。」
 白翼が手を挙げた。
「反省会も何も、更新してるのはけっきょくギムだから、ギムが一人で反省すればいいと思いまーす。っていうか僕らをいじる必要ないと思いまーす。」
「白翼! お前分かってない!!」
 漣月が音を立てて立ち上がった。そして白翼を指さして声高に叫ぶ。
「他の奴らもだ、よく聞け! まず双翼! 黒翼! 白翼! お前らは更新が不定期で遅いとはいえ連載小説のメインキャラだ! 先のあらすじもある程度考えられていて、ギムが諦めない限り完結までその立場は安泰!! それに活飛! 百合! お前らはインタビューメイン司会、メインって時点で一般兵のクセにいい立場だ! しかも天魔翼神編でもそれぞれの特技を生かして活躍した!! それに比べて俺はどうだ!? 小説の主人公だが始まりがそもそも思いつき! たまたま三話まであるが、次の話があるという保証はあるか? 否、ない!! インタビューの司会さえ乱入者と言うかサブと言うか、ギムの気まぐれで出ているにすぎない! どうだこの不安定さ! 忘年会だろうが反省会だろうが、出番そのものがありがたいんだ! つか俺トップ絵になったこともねーや、アイコンとキャラ紹介しかイラストねーや。あー!!」
 室内が静まり返った。
「漣月…」
 少しして、死愚裏不隠が口を開く。
「死グリ、お前も気づいたろ? 自分の立場ってヤツに…」
「いや、その前にお前、ヒガミじゃん。」
 漣月が石化した。
「あっ、漣月の石化って超久々。」
「インタビュー初登場以来ね。」
 活飛・百合が呑気に言った。
「まーでも確かに、せっかくの出番を断る必要はないよな。白翼、一応今日は大人になって周りに合わせとけば?」
「そういう死グリも何か合わせた感じだけど?」
「まー合わせても自主的でもどっちでもいいけど。」
 雰囲気がまとまってきたところで、翼雷が口を挟んだ。
「とりあえず、一応反省会ー。まーどっちかっつーと反省するのはギムだと思うから、今年の更新について登場人物としての感想とか意見とかねー。」
 翼雷はそう言いながらホワイトボード用のペンを取った。
「まずは一番更新量が多かった『インタビュー』からー。更新内容はこんな感じね。」
  ・第十七回(活飛・百合)
  ・小ネタ?(黒翼・白翼)
  ・小ネタ2(一応百合・漣月・死グリ)
  ・第十八回(活飛・漣月)
  ・第十九回(活飛・百合)
 翼雷はホワイトボードに五つの項目を書き込んだ。( )で囲んだのは、その回の司会者だ。
「…思ったんだけどさー、俺出てなくね?」
 死グリが言う。
「え? 出てるじゃん、『小ネタ2』。」
「それ、歴代武者インタビューの形式らしくなかったじゃん。元々バトンだし。」
 黒翼の指摘にも、死グリは不満そうだ。まぁ、確かにちょっと無理があった気もしたけど。
「まー、長く続くと試行錯誤するようになるんだよ。」
「…ネタ切れ近いってこと?」
 百合の何気ない一言に、フォローに入っていた活飛や、石化が解けてきた漣月、そして死グリが硬直した。
「い…いやいやいや! 確かにたくさんネタ出してきたからちょっと詰まったりはするよ!」
「あ、あれだ! やっぱ長く続いてるから、あんまりワンパターンなのもどうかなーってどうしても作ってる側は思うんだよ!」
「でも実際色々やってみて、『やっぱそのままが一番かなー』とか落ち着くんだよね。」
 三人があまりにも必死に見え、翼雷はくすりと笑った。
「大丈夫だよ、少なくともあと数個は書き途中のネタあるし。実は原文書き上がってるのもあるしね。」
「そ、そうなのか。」
「それに出てない武者も山ほどあるから、テキトーに理由つけてゲストチーム組めるって。」
「テキトーって!!」
「ちょっとまて、それどこからの情報だ?」
 安心する活飛たちの横で、双翼が冷静に言った。すると翼雷は、ふっと意味ありげな笑みを浮かべながら視線をそらした。
「オイ…」
「でも、ゲストをかぶらせないのは考え直したほうがいいかしら。」
 百合が双翼の言葉をさえぎった。
「今までも乱入とか番外編ではキャラをかぶらせたりもしたけど、せっかくいい特集を思いついたのにキャラが足りないのはきついのよね。」
「それは言えてる。試験的に『小インタビュー』として黒翼・白翼にキャラがダブるのをやってもらったけど、わざわざ小さくしないほうがよかったかも。」
「『再登場編』とか銘打って、普通のハガキの量でやるべきかもな。」
「今後の課題だねー。」
 お前らヒトの話をさえぎるな。双翼はそう突っ込もうとしていたが、四人の様子を見てそれをやめた。
「何だか、案外反省会らしくなってンじゃん。」
 黒翼が嬉しそうに言った。
「じゃ、ボクらも反省しなきゃいけないのかな。」
「してもらおーか。」
 翼雷がニヤニヤしながら双翼・黒翼・白翼に近づいた。
「じゃ、インタビューの話は一応その位にしよっか。次は『天魔翼神編』ね。まー、一話しか更新されなかったけど…」
  ・第十三話「海と薙刀、そして烏賊」
  ・百合登場
 翼雷は先ほどと同じように、更新内容を書き出した。
「危うく一年ぶりになっちゃったんだよねー。」
「ギムが、港町のシーンを場面転換多すぎるとか言いながら何度も書き直したんだよ。」
「どこで知った?」
 双翼が尋ねたが、やはり翼雷は答えない。
「まー言い訳するなら、卒業制作やってたら何か文章の細かい点が気になるようになっちゃったんだよ。あ、細かいって言っても文章力のあるヒトから見たら低レベルだろうけどね。」
「まー更新が遅い・少ないのはもういいじゃない。」
「百合、それって開き直」
 突っ込もうとした活飛が張り飛ばされた。
「それよりっ! 活飛から遅れること二話……ってあれ? 実際あんま経ってない? まーいーや。とにかく、あたしの登場よッ!」
「一行と直接からまなかったけどな。」
 漣月は突っ込みに成功したが投げ飛ばされた。
「戦闘が描かれたのは活飛との違いだよね。」
「そう! 活飛は足の速さが自慢だけど、あたしは女なのに戦うってのが売りだから!」
 死グリは学習して話の潤滑油となることを決めた。それは成功したが、喜んだ百合に背中をバシバシ強打され、結局痛い目にはあった。
「そういや女性キャラは天魔翼神編初登場なんだよね。」
「しかも、実は次回からいままでとちょっと違う展開になりそうな感じだし。」
「一話しか進んでいないのに、ずいぶん重要なところだったんだな。色々な意味で。」
「さすが三翼神【さんよくしん】、的確な分析だね。」
「何三翼神て?」
 翼雷の謎の造語に、双翼が聞き返した。
「ん? そりゃ翼神ガ」
「オイ。」
 本編に関わる話で警戒した双翼が、翼雷を睨む。
「…天魔『翼神』編の主人公三人だから『三翼神』。ギムがずっと前から使ってる通称だよ。」
「ふーん、そんなのあったんだ。」
「チーム名みたいだねー。」
 黒翼と白翼は翼神頑駄無の件に気づかず、普通に感心した。それを見て双翼は胸をなでおろす。
「さて、次は漣月ね。」
  ・第三話「金刃雷都の街の攻防!!」
  ・漣月・死愚裏不隠のきちんとした紹介追加
  ・翼丸登場
「ま、こんな感じ?」
「俺と死グリの紹介絵、前は何かギャグ体系だったもんなー。」
「天魔翼神編のキャラ紹介の体裁にあわせたの? アレ。」
「そうだよー。」
 翼雷が平然と言う。双翼はそろそろ突っ込む気が失せてきた。
「…ところで翼雷、何だよこの『翼丸登場』って。第二話だって初めて死グリが出てきただろーが。」
「え? 気づいてないの?」
「何に?」
「…。」
 双翼は漣月をじっと見た。じっと見たと言うより凝視、凝視と言うより睨んでいるに近い。しかし、漣月は察しない。すると死グリが双翼の背後に回り、その肩をつついた。
「幼名にも『翼』付いてンだね。」
「あー、さすがにお前はそこまで鈍くないかー…。」
 死グリがうなずいたため、双翼は少し安心した。再び漣月を見ると、翼雷を問いただしているが何も教えてもらえないようだ。
「えーと、こんくらい?」
「俺の小説の話し短ェよ!!」
 漣月が全力で突っ込んだ。だが終了モードの翼雷には無駄だ。
「ま、反省会なんだか更新内容の紹介何だか微妙だけど、こんな感じでいいかなー。言いたいこと言ったし。」
「お前の言いたいことを言ったのか?」
「ん、まぁ、……『代役』、ですから。」
「え?」
「さー忘年会に戻れー!」
 翼雷は満面の笑みで、七人を追い出した。


「似てますねェ。」
「んー、そうなのかなー。」
「だってホラ、烈刀丸に間違えられたんでしょう?」
「鎧とか違うじゃん。」
「烈刀丸は変装してると思ったんでしょうね。」
「…つーかさぁ、そもそもサザビーがモデルなんだから似てて当たり前だろ。」
 散斬角がもっともなネタバレをすると、邪法丸は黙った。
「……叉殺緋威さーん、暇だったら来てもらえますかー?」
「あ? 何だ?」
 邪法丸に手招きされ、超髪組の叉殺緋威がやってきた。そして腕を引っ張られ、操られるままに邪法丸と散斬角の間に立たされる。
「ホラ、似てないでしょう?」
「あー……確かに。」
「テメェら失礼だな!!」
「何やってるんだ?」
 赤い三人がごちゃごちゃやっているところへ、双翼が現れた。
「あ、双翼おかえり。」
「早かったですねェ。」
「どーせ大した話してねーんだろ?」
「うーん…反省は大したことないけど…ちょっと、色々新しく見えたような感じはあったかな。」
 双翼は苦笑しながら答えた。
「ところで散斬角、せっかくだから二人で飲み直さないか?」
「お、いいねぇ。今日は子供らナシ、大人だけで語ろうか!」
「…オッサンかお前は。」
 双翼がため息をついた。
「父親も可ですねェ。」
「え、ちょ、何? 俺の年齢のイメージそんな高くしないでくれる!? コレでもギムのイメージとしては22歳くらいなんだよ!?」
「お前も言うか!!」
 双翼は翼雷のことを思い出しながら突っ込んだ。

「オカワリ!」
「キュィエェッ(コッチモ)!!」
 剛妖丸と花劫拉の大食い対決。その見物に、いつの間にか無法党の面々(邪法丸除く)が集まっていた。
「何だあいつら…どんだけ食うんだ…!?」
「つーか、よくこんだけ料理出てくるな、この飲み屋…」
「店員誰だよ…」
「ブドウ出せよ。」
「関係ねェ。」
 まだ語りモードの砕武に、残り三人が一気に突っ込んだ。しかしまだ語ろうとするので、忍舞が縄を取り出し、撃斧が砕武を押さえつけて縛り、更に幻魔が呪符で口を封印した。
「…よし。」
「ら―――――――!!!!」
「!?」
 急に変な悲鳴が聞こえ、四人は声(もう声でいいよね)のしたほうを振り返った。声の主は当然、烏賊参枚だ。
「え、ちょ、何やってんの!?!?」
 ついに近くの料理が尽きたらしい。剛妖丸と花劫拉は、それぞれ烏賊参枚と大王烏賊参枚に襲い掛かっていた。
「待てェ――――剛妖丸――――!!!」
 どこからか烈刀丸が走ってきて飛び出した。
「ジャマスンジャネェ!! オレノメシ!!」
「メシじゃねーよ冗談じゃねーよ! お前が普段何食ってようが知らねーけど! さすがに妖怪とはいえ参加者はマズイ! 参加者食うのだけはやめておけェ――――!!!」
 烈刀丸が必死で押さえつけるが、剛妖丸は烏賊参枚を放さない。一方誰も相手にしていない(できない)花劫拉と大王烏賊参枚だが、食うか食われるか、巨大妖怪同士の壮絶な戦いとなっている。
「だーれーかーたーすーけーてー!!!!」
 シャギャ―――――ン!!!
 烈刀丸が叫ぶのと同時に、独特な刃物の動く音がした。黒い影が、あっけに取られている無法党の脇を駆け抜ける。
 ズギャギャギャギャギャッ!!!
「キィョエエェェェェェェェ!!!」
 何かが太い根を斬り裂く音がし、花劫拉が悲鳴をあげた。殺華面だ。殺華面が愛用の「地円爪」で、 花劫拉に戒めの一撃を与えたのだ。植物を切る殺華面の顔は、いつもの無表情のはずだが何となく楽しげに見えた。
「ぎょろーっ!」
 泣きそうな声で、大王烏賊参枚が花劫拉から離れる。大王と言えども、命の危機はやはり怖かったらしい。
「…何だ、けっこうできンじゃねーか。」
「うを!?」
 いつの間にか、瘴が幻魔の横に立っていた。
「アンタいつの間にいた!?」
「いつの間に? そりゃお前らがでかいほうに気を取られてるスキにだよ。そっちがぼーっとしてる間に、こっちは一仕事終えてンだよ。」
 そう言いながら瘴が指さした先には、その場に倒れた烈刀丸と剛妖丸、それと逃げ出して水槽に戻ろうとする烏賊参枚がいた。倒れた二人は、パッと見大した外傷があるようには見えない。
「お前…まさか二人を!?」
「あぁ、一応宴会の席なんでな、毒針打っただけさ。全身しびれるが、ま、死にゃしねーよ。」
「…いや、烈刀丸倒す必要なくね?」
「んーまーそうなんだがな、剛妖丸が倒れないんでたくさん毒針打ってたら、一本か二本刺さったみてーだ。」
「…。」
 気の毒だ。
 四人がそう思ったのは言うまでもない。

「活飛活飛ー。」
 偽皇帝が呼んだ。
「何?」
「見ろよコレ、何だか分かるか?」
「え? …マイク? …ハッ! カラオケセット!!」
「そうだ! で、せっかくだからお前歌わないか?」
「いいねそれ! …って、何でお前が俺に勧めるわけ?」
「いや、他に歌いそうなやつ思いつかなくて。でも見つけたことは自慢したい。」
「なるほど。じゃ、遠慮なく。」
 活飛はマイクを握り、十八番のナンバーを選曲した。
「みんな聞いて! 俺、歌います! 歌うのはもちろんコレ! 紅 零斗丸の『人生大津波』!!」
 活飛が叫び終えると同時に、前奏が流れ始めた。直後。
 ドスッ!
 活飛の真横に槍が突き刺さった。
「…歌うな。」
 少し離れたところで、槍を投げた姿勢のまま活飛を睨む男がいた。魔翼神だ。少ししてから姿勢を戻し、つかつかと活飛の元へと歩み寄る。
「俺の前で歌うな。歌は騒音だ、有害だ。」
「え、あ、す、すみません…」
 魔翼神のすごみに押され、活飛は小声になった。辺りはしんと静まり返っている。
「…歌…嫌いなんだ…」
「みたいだな……」
「トラウマでもあるのかの?」
 遠くの席で、白翼・黒翼・璽無坊がつぶやく。
「どうせやるんなら落語やれ。」
「は?」
 活飛がすっとんきょうな声を上げた。
「落語が無理なら漫談! 漫才! あーもーコントでもいいや。」
「え、お…お笑い好き…?」
 魔翼神の意外な一面を見、さっきまでとは別の意味で全員が静まり返った。
「ハッ、何バカなこと言ってんだよ。」
 酒ビンを片手に、天翼神が口を開いた。
「何だと!?」
「魔界武者が笑いを求めて、何を考えてるんだ? 他人に恐怖をばら撒きながら、自分は笑いを求める、矛盾してるねェ…」
「飲んだくれの天界武者に言われたくねェよ!」
「フン、酔って乱れるわけじゃないんだ、いいだろ別に。酔ってもいないのに他人に絡むバカよりはな!」
「てっ…テメェ!!」

 飲み屋の一番角の席で、双翼と散斬角は酒を飲んでいた。
「…悪くないな、こういうのも。」
「ん、どうした双翼?」
「悪くない…敵も味方も、宿命さえも関係ない。みんなで楽しく酒を飲んだり料理を食べたり、バカ騒ぎをして…」
「…そうだな。私も、恐ろしいはずの翼神頑駄無がいるのに、こんなにも楽しんでいる。確かに、悪くない。」
「あぁ…。」
 二人はそんなことを話しながら、ゆったりと酒に酔っていた。
 しかし。
 ドォン!!
 轟音がし、飲み屋の中に粉塵が立ち込めた。
「な、何だ!?」
 音で一気に酔いが醒め、二人は立ち上がった。
「……まさか!!」
「どうした双翼!?」
 散斬角が問いかけたとき、双翼は既に走り出していた。と言っても、野外に比べれば狭い室内である。目的地にはすぐに辿り着く。
「翼神!!」
 双翼が叫んだ。双翼の直感が示したとおり、そこには武器を構える二人の翼神頑駄無がいた。
「やっぱりテメェは気に食わねェ…今ここで決着つけるか!!」
「望むところ!! 魔界武者なんぞと一緒にいるとは、思えば思うほど虫唾が走る!」
「やめろッつってンだろーがあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 双翼が二人に飛び蹴りをかました。一人につき片足を使い、更に同時に命中させたので、飛び蹴りというよりは二人まとめてドロップキックだが。
「お前ら場をわきまえろッつっただろ! もう前世だろーが何だろーが関係ない、粛清してやる!!! 神通力展・開ッ!!!」
 双翼は双翼神へと変幻し、容赦ない攻撃を加え始めた。
「わー…やっぱ普段真面目なヒトって、キレるとすごいわねー。」
 百合が呆然と見る。
「いやー、今回限りだと思うよー?」
 死グリが、願望を込めて言った。
「しかし…こんなんで一年終わっていいのかなー…」
 活飛だ。
「でも翼神も参加した以上、誰かがああするしかなかったんだぜきっと。」
 漣月は諦めている。
「うん、これでいいんだよー。」
 翼雷が現れた。
「あ、お前こっちに来たんだ。」
「てっきり反省会だけかと思ったわよ。」
「いや、締めに入っとこうかと。…ホラ、歴代武者インタビューってけっこうグダグダに終わるじゃん? だから小説でこーゆーのもありだよ。」
「強制終了だよね…。」
 白翼が突っ込んだが、もうメインメンバーは諦めていた。もちろん白翼もだ。
「あ、じゃ、違うネタで終わろうか?」
 翼雷は何か思いついたらしく、肩鎧の中をあさった。
「はいコレ。素敵ないただきものだよ、活飛。」
「え?」
活飛プラモ写真
「…えー!?」
「来年のお楽しみ。では、今年も『ストライプ』とギムにお付き合いいただき、ありがとうございました。よいお年を。」


「文書集」へ戻る トップへ戻る