第九話
闇夜の村の魔窟
「…今日は野宿決定かな。」
あと数十分もすれば沈みきってしまうであろう夕日を見ながら、双翼がつぶやいた。
「えーっ、こんな何もないところでェ!?」
「さすがにそれはないでしょあんちゃん?」
双翼の言葉を聞き、黒翼と白翼がほおを膨らました。
「仕方がないだろう。歩いても歩いても、町や村どころか野宿するのによさそうなところも見つからないんだし…。」
「…もしかして僕ら、道に迷ったんじゃ?」
だんだん暗くなってゆく周囲を見回しながら、ふと白翼がつぶやいた。
「ま…まさか…」
白翼がつぶやいたあと、少々の沈黙をはさんでから黒翼が言った。
「…でもあの時、地図も見ずに道曲がっちゃったじゃん?」
「た、確かに……本当なら今日のうちに爆火炉忍亜山
【バビロニアさん】
へさしかかる予定だったが、山道なんて一向に見えてきてないし…」
白翼が言ったことに、双翼がうなずいた。
「…誰だよ、あの道左でいいって言ったの…」
散斬角がそう言って他の三人の顔を見たが、三人は散斬角のほうをじっと見て視線をずらさない。
「…アレ? もしかして…私だったか…?」
「うん。」
「『以前通ったとき、左が近道だったんだ』って言ってたケド。」
「どうやらそれは、あの道のことではなかったらしいな。」
「……」
三人にずばり指摘され、散斬角は完全に黙り込んだ。
「とりあえず…野宿をするなら何か準備しなきゃねー…」
「そーだな…。日が完全に沈んだら暗くて何も見えねェし。」
「確かに…何もないとはいえ、このまま道の真ん中に横になるわけにもいかないしな。」
白翼・黒翼・双翼が話しながら野宿の準備(準備といえるほどのこともないが)をし始めたとき、散斬角は暗くなっていく道の先に、小さな明かりを見た。
「…双翼、それに黒翼と白翼も…見ろ! あそこに明かりが見えるぞ!」
「えっ?」
散斬角が示した方向を見ると、双翼らにもそこに明かりを確認した。
「村でもあるのかな?」
「誰かが野宿の準備とかしてるのかも。」
「とりあえず行ってみよう!」
四人はうなずきあい、明かりのあるほうへ走っていった。そしてその明かりに近づくにつれ、そこにあるのが小さな村であることが確認できた。
その村に辿り着いたのは完全に日が暮れきってからだったが、村の入り口には老人が一人、たいまつを持って立っていた。その老人は四人に気付くと、声をかけてきた。
「おや、こんなに暗くなったと言うのに…どうかいたしましたか?」
「いえ、ちょっと道に迷ってしまいまして……ってか、そっちこそこんな暗くなってるのに、何やってんですか? よく見ると村ン中もけっこう出歩いてる人がいるみたいだし…。」
散斬角は老人の問いに答えたが、自分もまたふと気づいたことを問いかけた。
「いやぁ、実は最近夜中になると村に妖怪が姿を現すもので……ヒトが襲われないよう、村の男が毎晩交替で見張りをしているんですよ。」
「なるほど…それでか。どうりで、日が暮れる時間だったのに村の明かりが見えるわけだ。」
老人の返答を聞き、双翼らはうなずいた。
「あなたがたは、道に迷ったということは今晩泊まる当てもないのでしょう? 先ほど言った通り、夜は妖怪が現れて危険です。よろしければ今晩は、私の家にでも泊まっていきませんかね?」
「えっ、いいんですかっ!?」
四人が思わず聞き返すと、老人は笑顔でうなずいた。
「困った時はお互い様です。あ、ちなみに私はこの村で村長をしております。ささ、こちらへ。」
老人はそう言うと、早速四人を自分の家へと案内した。
「まぁ私が村長だと言っても、元々小さな村なもので…狭い所ですが、どうぞお入りください。」
村長はそう言うと自分の家の戸を開けた。双翼らが村長に促されて中に入ろうとすると、そこには殺気立った男が五人ほど、くわやつるはしを手にして座り込んでいた。そしてその男たちは四人が入ってくるのに気が付くと、一斉に鋭い眼光をそちらに向けた。そのあまりの迫力に、思わず四人は無言で後ずさりをした。
「あぁ、これは失礼。彼らはこの村の者です。」
「な…何でこんな殺気立ってんスか…?」
男たちに気圧されながら、黒翼が聞いた。
「実は彼らは…家族や友人を例の妖怪に奪われてしまったんです。そこで毎晩、妖怪が出現するたびに戦いを挑んでいるのですが……」
「最初は一緒に戦う仲間も十人以上いたんだ。」
「だが、俺ら以外はみんなあの化けモンに食われちまった…。」
「だから今日こそはと思って妖怪を待ち構えてるわけよ。」
村長の言葉に続け、男たちはそう言った。
「…だが、今までもっと多くの人数がいたにも関わらず、妖怪にはかなわなかったわけだろう? 見たところ普段から武術の修行をしているわけでもなさそうだが……今日戦って、勝てると思うのか?」
双翼らは男たちの話を黙って聞いていた。だが、男たちのほうに強い視線を向けながら、散斬角は静かにそう言った。
「そ…それは…」
「…確かにそうだが……何もしなかったら村人全員が食われちまうだろうがァ!」
「これ以上ヒトが死ぬのはいやだから、負けるかもしれなくてもこうやって戦おうとしてるんだよ!!」
男たちは散斬角の言葉へ激しい怒りをぶつけた。しかし、散斬角はそれでも冷静だった。
「お前たちが無駄に血を流す必要はない。その妖怪、私たちが退治しよう。」
散斬角がそう言った直後、男たちは沈黙した。散斬角の突然の一言に、驚きを隠せないようである。
「い…いいのか? 確かにアンタとその横の長髪のヤツは腕が立ちそうだが…」
「お前らはこの村の住人じゃないだろ?」
「村長が俺たちを一晩泊めてくれるそうだからな、その礼だ。」
散斬角がそう言って双翼達を見ると、三人はうなずいた。
「…でも、そこの二人はまだ子供のようだが…」
「だいじょーぶ。僕、術法得意だから。」
「俺だって、いつもアニキと散斬角に修行つけてもらってるからな。」
男たちは黒翼と白翼のほうを心配そうに見たが、二人は得意げに槍や呪符を構えて見せた。
「そうか……じゃあ、頼むよ。」
「今まで奴に食われたみんなの仇、俺たちの代わりにとってきてくれ!」
「あぁ、もちろんだ。…ところで村長、その妖怪がどこから現れるのか、分かりますか?」
双翼は男たちに返事をしてから、村長の方を見た。
「はい、この村のすぐ近くに洞窟があるのですが、妖怪は毎夜その洞窟から姿を現し、そして日の出前にそこに帰っていきます。」
「じゃ、そこが妖怪の住処で間違いないみたいだね。」
「よっしゃァ、早速行って退治しようぜッ!」
そう言うと四人は、早速村長の家を出て洞窟へ向かった。
「…暗いなぁ。」
「…まぁ、夜だし……たいまつ持ったくらいじゃ、暗いだろう。」
「ひょっとしたら、今まで食べられてきた村人の幽霊とか出るかもね。」
「白翼…そういう事を言うな。」
洞窟に入る前に村長から渡されたたいまつを双翼が持ち、四人は妖怪がいると言われる洞窟の奥を目指していた。洞窟内は静かで、四人の足音と声以外は何も聞こえてこない。本当に妖怪がいるのかと疑いたくなるほどであった。
「双翼、確か村長は、妖怪が姿を現すのは夜中だって言ってたよな。」
「あぁ……もしかしたら妖怪はまだ動き出していないのかもな。」
「わかんないよ〜? もしかしたら、僕らが洞窟内に入ったのに気付いて、息を殺して待ってるのかも…」
「白翼、そーゆーこと言うなってさっき散斬角に言われたばっかだろー?」
「ふふふ、黒翼、怖いの?」
「バッ…怖いワケな…」
ずりっ…
黒翼が白翼の言ったことを否定しようとした時、洞窟の奥から何かを引きずるような音がした。その音を聞いた瞬間、四人は思わずびくりとし、足をとめた。
「…聞こえたか、今の音。」
双翼は背中の刀に手を添えながら言った。
ずりっ…
「…あぁ、我々四人が発した音ではない。」
散斬角は双翼に答えながら刀を抜いた。
ずずっ…
「あんちゃん、たいまつ僕が持つよ。そのほうが戦いやすいでしょ?」
「あぁ…頼む。」
白翼は双翼からたいまつを受け取ると、空いている片方の手に呪符を用意した。
ずずずっ…
「何か…どんどん近づいてきてるみたいだな…」
黒翼もまた武器をかまえ、言った。
ずりっ… ずりっ… ずりっ…
音はゆっくりと四人のいるほうへ近づいていった。しかしもうそろそろ正体が分かるのではないかと言うあたりまで近づいたところで、その音は止まった。完全な静寂が、四人に緊張感をつのらせた。そして次の瞬間、
ヒュッ
「うわぁっ!?」
突然さっきとは違う鋭い音が聞こえ、直後、散斬角が悲鳴と共に上のほうへ上がった。
「なっ…何だ!?」
「散斬角ッ!?」
双翼ら三人は慌てて散斬角の姿を目で追った。散斬角は四本のヒモのような物で体をつかまれ、洞窟の奥の闇へと引き込まれていった。
「やはりさっきの音は妖怪の…!」
双翼はそう言いながら散斬角の後を追いかけ、黒翼と白翼もその後に続いた。そして三人が奥の方へと進むと、目の前には、先が四つに分かれた触手で散斬角を捕えている、巨大な妖怪が姿を現した。
「こ…これが村人の言っていた人食い妖怪…!?」
「植物…だったんだ…」
双翼たち三人は、この妖怪の姿を見て驚きを隠せなかった。重そうに前に垂れ下がった太い茎の先端には大きな花の蕾があり、その後ろには二種類の触手が二対ずつ生え、その後ろには四枚の葉と二つの小さい花の蕾が付いている。また茎までの長さでは飽き足りず、地面から這い出るように伸びた根は、植物妖怪の姿全体を蛇か龍の化け物のようにも見せた。
「こいつはもしかして…花劫拉
【カゴーラ】
…!?」
「分析してないで助けてくれ――ッ!!」
妖怪の正体を知って驚愕している三人に向かって、散斬角は必死に叫んだ。そう言っている間に、その植物妖怪は正面に咲いた橙色の花を開き、その中に散斬角を放り込もうとしていた。
「あああぁぁっ!! 食われる…食われる――ッ! 一呑みにされる―――ッ!!!」
「散斬角、少しじっとしていろ! 討魔武爪!!」
双翼は散斬角の様子を見てすぐに抜刀して植物妖怪の方へ跳び、強く気を込めて刀を振り下ろした。刀の描く軌跡は白い光となり、植物妖怪の触手を散斬角ごと体から分離させた。そして妖怪から解放された散斬角は、そのまま地面に落下した。
「たっ…助かったぁ……双翼、できれば妖怪の分析をするより先に助けて欲しかったが、とりあえずありがとう。」
散斬角はそう言いながら立ち上がると、双翼の技を受けて苦しんでいる植物妖怪のほうへ刀を向けた。
「ところであんちゃん、さっき『こいつはもしかして』とか言ってたけど、アレのこと知ってるの?」
白翼は双翼に向かってそう言いながら、植物妖怪のほうを指差した。
「あぁ、あの妖怪だが…恐らくは『花劫拉』という植物妖怪だ。ある日突然地面から生えてきて、自ら動いて虫や動物、更には人をも食べて育っていくらしいのだが……まさかここまで大きくなるとは……」
双翼は白翼らに説明しながらその植物妖怪――花劫拉を見た。目の前にいる花劫拉は地面から出た部分でさえ大木を寝かせたかのような太さ・長さで、正面に咲いた花だけでもヒト一人と同じぐらいの大きさがある。
「これが洞窟から出てきて村を襲うってことは……地面の中にもっと長〜〜く……」
白翼の今の言葉を聞き、言った本人を含む四人は真っ青になった。
「…とりあえず、花劫拉はさっき散斬角を捕えたように、先が四つに分かれた触手を使ってこちらを捕まえに来る。正面の花の中に放りこまれたら鎧ごと溶かされてしまうから、くれぐれも気をつけるんだ。」
双翼がそう言いながら他の三人を見回すと、黒翼らはうなずき、改めて武器を構えた。ちょうどその時花劫拉も、先ほどの双翼の攻撃による苦しみから立ち直ったようで、再びこちらに向けて触手を伸ばしてきた。
「いくよっ、守衛陣鏡牙ッ!」
花劫拉の動きを見、白翼は双翼らの前に立ち、自分の周りに結界を張った。花劫拉の触手が白翼の結界に打ち付けられた直後、そこから針が伸び、触手を貫通した。
「…ところであんちゃん、こいつどーやって倒すの…? 地面から出てるところだけ何とかしても、植物だから根っこが生きてたら復活するかもよ…?」
花劫拉の攻撃から皆を守りながら、白翼が聞いた。
「とりあえず確実に倒すためには…奴を地面から掘り出して、そのあとトドメを刺すしかないな。妖怪だと言っても所詮は植物だから、燃やすと早いんだが……」
「じゃあたいまつ投げる?」
双翼の返答を聞き、白翼は手にしていたたいまつを軽く振って見せた。それを見て双翼はうなずこうとしたが、二人の間に散斬角が割って入った。
「いや、火だったら私に任せてくれ。我が斬火刀
【ザンカトウ】
の力、見せてやろう!」
「そうか。じゃあ私が花劫拉の根を掘り出そう。」
「まさか地道に掘るから待ってろとは言わないよな?」
「言わない。」
散斬角の一言を軽く流し、双翼は刀を構えた。
「あっ、だったら俺は、兄貴がやりやすいようにまず奴をひるませる役ッ!!」
自分だけ役割がないことに焦りでも感じたのか、黒翼が双翼の目の前に出て言った。
「そうか、じゃあまかせたぞ。…だが、あまり無理するなよ?」
「大丈夫! 修行の成果、今ここで皆に見せるぜッ!」
「稽古つけてくれたあんちゃんと散斬角は既に見てるんじゃない?」
「…。」
「とりあえず、そろそろ守衛陣のほうがやばいから…あとよろしくね。」
黒翼に言いたいことを言うと白翼は、針の反撃を受けても尚攻撃を続けている花劫拉から少し離れた。
「いくよっ、守衛陣鏡牙・解除!」
白翼がそう言うと結界は解け、花劫拉の触手が四人の上から振り下ろされた。
「よっしゃいくぜェッ! 必殺・超突貫
【ちょうとっかん】
!! とぉりゃあ――――――ッ!!!」
黒翼は槍を正面にかまえると、花劫拉に向かって全速力で突進した。黒翼の槍は振り下ろされてきた花劫拉の触手を突き刺し、更に正面の花の下を通過して、茎と根のちょうど中間あたりを貫通した。
キュオアアァエェェェッ!!!
花劫拉は黒翼の攻撃を受けた瞬間、奇声や悲鳴に似た音をあげて暴れ出した。花劫拉が暴れ出した直後に黒翼は槍を引き抜いてその場を離れ、邪魔にならぬよう双翼と散斬角の後ろまで走って下がった。
「黒翼、いい働きだ! ゆくぞ…四衝波
【ししょうは】
!!」
双翼は黒翼が自分の後ろにきたことを確認すると、刀を頭上に振り上げ、それを勢いよく地面に向かって振り下ろした。その一撃で地面がえぐれ、花劫拉は地面ごと洞窟の天井にぶつかるほどに吹き飛ばされた。
「うわ、ホントに掘り出した!」
「さすが双翼あんちゃん!」
「お、思ったより長いが……何にせよこれで終わりだっ!」
散斬角は刀をかまえると目をつぶり、刀に全精神を集中させた。鋼色をしていた刀身は段々と赤みを帯びて熱気を放ち始めた。
「天焦
【テンショウ】
っ…爆灰斬
【バッカイザン】
!!!」
散斬角がそう言ってカッと目を見開いた瞬間、刃からボッと炎が噴き出した。そして散斬角は暴れる花劫拉のすぐ近くまで駆け寄り、そこから真上に刀を振り上げた。炎を纏った刀身は花劫拉の体を両断し、炎は瞬く間に花へ、茎へ、葉へ、根へと広がっていった。
キュオアァッ… ギエェッ…
しばらくは苦しむ声のように花劫拉から音が発せられていたが、次第にその音は聞こえなくなり、炎だけが洞窟内の音を反響させていた。やがて、花劫拉のその巨大な本体は焼きつくされ、炎は消え、大量の炭や灰だけが残された。
「…終わったな。」
「あぁ、今までコイツに食われてきた人々の仇はとった…。」
「ここまで燃えちゃあ種も残らないね。」
「これであの村の人たちも安心して暮らせそうだなッ!」
「どうもありがとうございました。」
四人が勝利を噛み締め安心していると、急に背後から村長の声が聞こえた。驚いて振り向いてみると、そこには村長と、先ほど村長の家にいた男たちが立っていた。
「あ、あんたらいつの間に…。」
驚いた表情のまま散斬角が言ったが、それを気にせず村長は笑顔で頭を下げた。
「これで我々も安心して眠ることができます。」
「ここまで完璧にやってくれたし、もう心配は何もなくなったぜ。」
「あの化け物、俺たちだけじゃ飽き足りず、近くを通った旅の者まで襲いやがったからな…」
「このまま大きくなったら、この国全体の脅威になるんじゃないかと思ってたんだ。」
「ホントは、あんたたちをあの化け物から何とかして隠そうと思ってたんだけど……まさか逆に退治してくれるとは思わなかったよ。」
村人たちの率直な感謝の言葉を聞き、四人は照れながら笑った。
「何、いいってことさ!」
「我々はできそうなことをやろうと思っただけです。」
「困ってるヒトたちをほっとくワケにもいかねーしなっ!」
「それに、一晩泊めてくれるって言うから、そのお礼代わりだしね。」
四人がそう言うと、村人たちは改めて頭を下げた。
「本当に…ありがとうごさいました。」
そう言って頭をあげたかと思うと、村人たちは、すぅっと洞窟の闇の中に、消えた。
「…あれっ?」
「…今、消えなかった?」
「…洞窟から出てったンじゃないのか?」
「…だが、後ろを向いた様子はなかったぞ…?」
「……って言うかよく考えたら、さっきの人たち、けっこー僕らから離れたトコにいたよね、たいまつの明かりじゃ姿確認できなさそーなトコに……」
「…それ以前に……我々に気付かれることなく、足音も立てずに、更にたいまつなんかも持たず、真っ暗な洞窟内を…?」
「……」
四人はしばらく呆然としながら話していたが、一旦顔を見合わせ、そして洞窟の入り口の方を見ると、ほぼ同時に外へ向かって走り出した。
四人が洞窟から外に出ると、もう日が昇り始めていた。全速力で走ったにも関わらず、先ほどの村人たちに途中で追いつくことはなかった。そして洞窟から出た四人の目の前には、家の入り口が壊されたり屋根に穴が開いたりしていて、人っ子一人見当たらない廃墟の村が広がっていた。
「こ…これって一体…」
夜とは全く違う村の様子にア然とする双翼たちの脳裏に、先ほどの村人の言葉が蘇ってきた。
――これで我々も安心して“眠る”ことができます――
――あの化け物、“俺たち”だけじゃ飽き足りず――
――近くを通った旅の者まで襲いやがったからな…――
――この国全体の脅威になるんじゃないかと――
――あんたたちをあの化け物から何とかして隠そうと思ってたんだけど…――
「…もしかして……実はこの村って既に家畜からヒトまで、全て花劫拉に食い尽くされた後で…」
「…旅人とかが自分たちと同じ目に遭うことを心配して…?」
「うああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
黒翼と白翼が青ざめた顔で震えながら話していると、突然散斬角が悲鳴をあげた。
「じゃっ…じゃあこの村の人たちは始めからみんな死んでっ……ギャ――――――――イヤ―――――――――――――――!!」
「あっ、散斬角ッ…」
散斬角が叫びながら走り去っていくのを見、黒翼と白翼はほんの少しの間呆然としていたが、直後に自分たちも恐怖感に襲われ、散斬角の後を追って走り出した。
「わ――――――ッ! ゆっ…ゆ――――れ――――――――ッ!!!」
「あ―――――――――ッ!!!」
「お、オイ黒翼白翼ッ!!」
走り出した三人見て、双翼も追って走り出した。しかし村から出る直前に双翼は一旦足を止めて振り向き、村と洞窟の方へ手を合わせた。そして再び向き直り、散斬角・黒翼・白翼のあとを追っていった。
【次回予告】
爆火炉忍亜山近くで、双翼が体調を崩し倒れてしまった!
丁度その頃、新世武者軍団にも体調を崩したヒトがいて…
次回、
第十話 「爆火炉忍亜山の攻防!?」