第六話
対決・無法党!
落とし穴にハマった烈刀丸を放棄して洞窟を奥へ進んだ双翼らは、少し開けた空間にたどり着いた。そこには、幻魔・忍舞・砕武・撃斧の四人が待ち構えていた。
「やはり来たようだな。」
幻魔はそう言うと、にやりと笑った。
「…まァ、来たけどさ……あんたら、出かけたんじゃなかったの?」
白翼の冷めた一言で、相手四人は硬直した。
「そういや俺らがここまで来るのって、大して時間かかってないよな。何でアンタら戻って来てンの?」
「う…うるせェッ!!!」
白翼と黒翼の言葉に逆上した忍舞が、目の前にいた黒翼に斬りかかった。
「うわぁ!! 何で白翼じゃなくて俺にだけ斬りかかってくんだよッ!!」
「じゃかぁしい!!」
文句を言いながら槍で防御する黒翼に対し、さらに忍舞は攻撃を続けた。
「よしっ、砕武、撃斧! お前らも行けッ!」
「りょうかーい。」
「…お前もサボるなよ?」
砕武は幻魔に言われるまま双翼の方へむかってゆき、撃斧は幻魔に一言言ってから白翼へとむかっていった。
「砕武の相手、今度はオマエでいいな?」
砕武は双翼にそう確認すると、手にしていた棍棒を振り上げた。しかし双翼はその棍棒を振り下ろされる前に素早く砕武の後ろに回り込み、抜刀した。
「くらえっ、瞬裂雀爪
【しゅんれつじゃくそう】
!!」
双翼は抜刀した直後、砕武を十文字に斬りつけた――が、砕武は双翼の動きにすぐさま反応して体をひねり、その斬撃をかわした。
「むんっ!」
砕武は攻撃を回避するだけでなく、身を翻し、背後にいた双翼にむかって思いっきり棍棒を振り下ろした。双翼は間一髪のところで攻撃をかわしたが、今の一撃を受けた地面はべこりとへこんでいた。
「…こいつ、思ったよりできる…!」
「オマエ、やるな。砕武、今のは当たるかと思った。」
砕武は棍棒を片手で持ち上げると、再び双翼と対峙した。
「オラァ死ねこのクソガキぃ!!」
「だから何で白翼じゃなくて俺なんだよ!!」
「関係ねェ!! ぐちゃぐちゃと余計なこと言うヤツは嫌いだァ!!」
忍舞は相変わらず、黒翼相手に猛攻を続けていた。黒翼は何とか忍舞の攻撃をかわして反撃に出ようと試みるが、相手の動きが速すぎて完全に防戦一方になっていた。
「えいっ、守衛陣 鏡牙!」
撃斧と対峙した白翼は、いつも通り自分の周りに結界を張った。
「やはりそうくるか。しかし、拙者を相手にそれは無駄なこと!!」
撃斧はそう言うと、白翼から離れた所から砲を連続して撃った。白翼の結界は砲弾の力を吸収して反撃の針を出したが、それは遠くにいる撃斧には全く届かない。それどころか、撃斧の連続攻撃のせいで結界はかすかにきしんでいた。
「あっ…やばっ。結界壊れそ…」
「さァ少年、お前はどう出る?」
改めて結界を張り直す白翼を見、撃斧はにやりと笑った。
双翼らと幻魔たちが戦っているころ、邪法丸は洞窟の最深部で武器の手入れをしていた。
「何だか入り口方面が騒がしい……やはり、出かけるのを諦めて帰ってきたのは正解だったようですね。」
邪法丸はそう独り言を言うと、ろうそくの火で刀身を照らした。
「みっ…見つけたぞ邪法丸ッ!!!」
邪法丸はそんな声がしたのを聞き、その方向を振り返った。そこには、泥だらけになった烈刀丸が、息を切らしながら立っていた。
「おや…いらっしゃいませ、烈刀丸。どうやら入り口の罠にはひっかかってくれたようですね。ありがとうございました。」
「ふざけんなァ!!」
丁寧に言った邪法丸に対し、烈刀丸は抜刀してその刃を向けた。
「毎回毎回違う形の罠仕掛けやがってっ……いい加減にしろ!!」
「……今回はぐっと分かりやすいものにしたつもりなんですけどねェ、やっぱりひっかかるんですか。」
「グッ…」
「やはり、あなた相手なら戦うより罠を仕掛けるほうが楽しいですね。」
「だっ…黙れ黙れ黙れえぇぇぇぇッ!!!」
邪法丸に言いたいように言われ、烈刀丸は地団駄を踏みながら刀を振り回した。
「邪法丸!! 俺たちの宿命に、今日こそ決着をつけようじゃねーか!!」
「…烈刀丸、私たちの宿命の相手はお互い別にいると思うのですが…」
「そっちは一番最後でいい。今の俺の相手は、邪法丸、オマエだ!!」
烈刀丸はそう言うと刀を自分の正面で構え、邪法丸を見た。
「…そこまで言うのなら……分かりました。真剣勝負といきましょう。」
邪法丸はそう言うと、烈刀丸の方へ剣をかまえた。
「いざ、勝負!!」
二人はまったく同時にそういい、次の瞬間、キィンと音をたて、刀を交えた。
「くらえ、『炎獄』
【えんごく】
!」
幻魔がそう言って呪符をかざすと、双翼・黒翼・白翼の三人を業火が襲った。
「くっ!」
「あちぃっ!」
「うわぁ!」
「あっはっは! 燃えろ燃えろ!!」
炎にたじろぐ三人を見、幻魔は楽しそうに笑った。
「ちくしょー、四対三なんて卑怯だぞ!!」
笑う無法党の面々をにらみ、槍を振り回しながら黒翼が叫んだ。その時――
ゴッ
結界を張り直そうとして一旦術を解いた白翼に、運悪く、黒翼の振り回していた槍がぶつかった。
「い…痛いッ!! 何すんのさ黒翼!!」
「あっ、ご、ごめ…」
謝る黒翼にむかって、白翼は腕を振り回してその背中をぼくぼくと殴った。
「い…痛ェ! ゴメン、ゴメンって! 今のは俺が悪かったから!!」
「はははははっ、仲間割れか! 余裕だなぁ!」
ケンカを始めた二人を見、忍舞たちは大笑いした。しかしその時、白翼の懐から一枚の呪符が地面に落ちた。そしてその呪符が地面に触れた瞬間――
キイィィン…ズビ―――――――ッ!!!
「ぎゃぁ!」
突如その呪符の周りに半球状の小さな結界ができ、そこから光線が放たれた。しかも運悪く光線の伸びる先にいた砕武は、光線に当たって全身丸焦げになり、倒れた。その光景を見た一同は、皆絶句し硬直した。
「な…何? 今の…」
「皆、逃げてー!」
ア然としている皆に向かって、白翼が叫んだ。先ほどの呪符を見ると、まだその周囲の結界は消えておらず、もう一度光線を放つような気配を感じさせていた。
キュイィィィィンッ…ズババババババッ!!
「ギャ―――――!?!?!?」
白翼が叫んだほんの数秒後、結界からは、先ほど砕武に当たった光線と同じようなモノが、何本も一気に、しかもに連続して放たれた。突然の無差別攻撃に、この場は大混乱した。
「くっ…『纏結』
【てんけつ】
!」
幻魔は新たに呪符を一枚出し、自分一人だけ結界を纏った。
「あっ、幻魔、自分一人だけずるいぞ!!」
必死に光線をよけながら、忍舞が言った。
「この呪符は俺自身にしか使えんのでな、仕方ないだろう!!」
「役立たず―――!!」
幻魔の返答を聞き、忍舞と撃斧は口をそろえてそう叫んだ。
「はっ…白翼!! あの呪符はッ…あれは何なんだ!?」
狭い空間の中光線から逃げ惑いながら、双翼が聞いた。
「ぼ…僕の使う術法に『攻勢陣 荒破天』
【こうせいじん こうはてん】
っていうのがあるんだけどね、呪符を使うと他人の周りにその攻撃結界を張ることもできるの。」
「じゃあ何で今、呪符から無差別攻撃がされてるんだよ!?」
返答した白翼に、今度は黒翼が質問した。
「う…うっかり地面に落とすとね、誰か結界の対象の人がいなくても、勝手に攻撃始まるの…」
「止める方法は!?」
「…攻撃終わるまでしばらく待つしか…」
「何ィ―――――――ッ!?」
「即刃瞬迅閃
【そくじんしゅんじんせん】
!」
「何の、闇勢無
【アンセム】
!」
烈刀丸の居合攻撃に対し、邪法丸は手の平に結界を作り、その一撃を受け止めた。
「腕を上げたようだな邪法丸ッ!」
「烈刀丸、あなたこそ。…しかし、これをよけられますか? 荒嵐主
【コーラス】
!!」
邪法丸は右手で握った剣で烈刀丸に三度斬りかかった。
「ふんっ、甘いっ…」
烈刀丸はその攻撃を刀で受け止め、反撃に出ようとした、が――
「甘いのはあなたです。」
突如剣の持ち手を入れ替えた邪法丸は、今度は反対側から烈刀丸を斬りつけた。
「何ッ…」
烈刀丸はその不意打ちを何とかかわしたが、兜には一本の斬り傷が付いた。
「くそっ…相変わらず嫌な戦法使いやがるなっ…」
「これが私の“邪神亜流 翻弄術”
【ジャシンアリュウ ホンロウジュツ】
ですので。…それにしても、何だが入り口方面が騒がしいですね。幻魔たちに何かあったんでしょうか?」
邪法丸がそう言ってよそ見をしたのを、烈刀丸は見逃さなかった。
「スキあり! 烈震破断撃
【れっしんはだんげき】
!!」
「し、しまっ…」
カキィン! と音をたて、烈刀丸の一撃により邪法丸の剣は手から離れ、烈刀丸の後ろに突き刺さった。
「どうやら、俺の勝ちのようだな。」
烈刀丸はそう言って、邪法丸の方へ真っ直ぐに刀を向けた。
「…おあいにく様、まだ勝負は決まっていませんよ。」
邪法丸はそう言ってにやりと笑い、烈刀丸の方へ突進した。
「諦めの悪いヤツめっ…」
「諦めたら勝てるものも勝てない、そういうことです。…双狼
【ソロ】
!!」
邪法丸は両腕についた刃を正面に向け、それで斬撃を受けながらも殴るように斬りつけ、烈刀丸を押していった。
「くっ…このまま剣を取りにいくつもりかッ! そうはさせんぞ! 雷斬しょうしょうりゅ……あれ?」
技を出そうとした烈刀丸は、技名を噛んだらしく動きを止めた。そのスキを逃さず、邪法丸は烈刀丸の刀に向かって蹴りを繰り出した。
「ぐおぉっ!?」
烈刀丸は邪法丸の不意打ちで体勢を崩した。そして刀をかまえ直したとき、既に邪法丸は剣を手にし、その切っ先を烈刀丸の眼前へ向けていた。
「形勢逆転、ですね。」
一方、白翼の落とした『攻勢陣 荒破天』の呪符の効果はまだ続いていた。
「白翼―――ッ!! 攻撃終了はまだかああぁぁぁッ!?!?」
「な…何か今回調子いいねー。」
「それはいつもより長く続いてるって意味かッ、あァ!?」
黒翼と白翼は、そんな言葉を交わしながら結界からの光線を必死によけていた。二人とも、普段なら間違いなく変幻しているであろうというほど興奮している。
「あっ、クソッ! もう『纏結』の札がねェ!」
白翼の物よりも圧倒的に持続時間の短い呪符しか持っていないらしい幻魔は、そう言って舌打ちした。幻魔の周りには、もう彼を守る結界はない。そこへ、光線が幻魔の頬をかすった。
ジュッ!
「ぎゃあっ、焦げたぁ!!」
幻魔は大慌てでその場から飛び退いた。その拍子に幻魔の服の袖から一枚の紙が落ちたのを、双翼は見逃さなかった。
「はっ!」
双翼は即座に、幻魔の落としたその紙を刀で斬った。それは、片面に『封』、その裏に『幻』と書かれた、一枚の呪符であった。
「あっ、しまった…」
幻魔が気づいた時には既に遅く、『封幻』の呪符はその効力を失っていた。
「うおぉぉぉっ!! やられた分は倍にして返すッ!! 妖魔解禁―――――ッ!!!」
「よっしゃ――ッ、やるぞぉ――ッ!! 気力充て―――――――ん!!」
「神通力展開!」
幻魔の術が解けた直後、今まで我慢していた物を解き放つかのように黒翼・白翼が変幻し、それに続き双翼もまた変幻した。
「さて、次はこれを……朱雀炎舞
【すざくえんぶ】
!」
双翼神は刀をかまえてそれに気を集中させ、白翼の落とした呪符を結界ごと斬った。呪符は斬られた瞬間炎に包まれ、放たれていた光線もろとも結界は消え去った。
「とりあえず、これで敵以外の脅威は消えたが……」
双翼神はそう言いながらあたりを見回した。洞窟の壁が先ほどの光線のせいでボロボロになっているのが目につく。
「…砲を撃ったり、派手なことを少しでもやろうものなら崩れるな、きっと…」
そう思っていると、双翼神の背後には、いつの間にか幻魔が回りこんできていた。
「貴様ッ、よくも俺の呪符をっ…! くらいうがいい、『滅殺』
【めっさつ】
っ」
「させん! 青龍風月
【せいりゅうふうげつ】
!!」
呪符をかざした幻魔から素早く離れた双翼神は、その場で刀を数回振った。その切っ先からは三日月形の衝撃波が放たれ、幻魔の手にしていた呪符を、その効力発揮前に斬り裂いた。呪符を斬り裂いたあとその衝撃波は、壁よりも手前で力をなくしてふっと消えた。
「ぐぅっ…おのれ!!」
幻魔は刀を突きつけられ、悔しそうに双翼神をにらんだ。
ドガァッ! ズバァン!
双翼神が幻魔を追いつめた時、黒翼神と白翼神のいる方向から何やら派手な音が聞えてきた。双翼神は嫌な予感がし、そちらのほうを振り向いた。
「くらええぇぇぇっ、激打突
【げきだとつ】
ッ!!!」
黒翼神は槍の石突きで忍舞を突き、そのまま壁に思いっきりぶつけ、押しつけた。
「ぐえぇっ…」
石突きで突かれたまま押さえつけられている忍舞は、苦しそうに声を上げた。
「いっくよーっ、白翔閃
【はくしょうせん】
――――ッ!!!」
「ギャ―――ッ!」
白翼神が二本の刀を振ると、少し離れて正面にいた撃斧が、まるで刀で払い上げられたかのように吹き飛び、洞窟の天井にぶつかってから地面に落下した。
「おっ、おいお前たちッ!! そんなに派手に…しかも壁や天井に刺激を与えるような攻撃ばかりしたらッ…」
双翼神は慌てて二人を止めようとしたが、既に遅かった。
ミシッ… ギシッ…
二人の遠慮ない攻撃のせいで、洞窟は今にも崩れそうに震動を始めた。壁や天井にはひびが入り、パラパラと小石や砂が落ち始めた。更にはズン! と大きな音をたて、天上から大きな岩が落下し、そこにできた穴から空が見えた。
「はっ、まずい、このままでは全員生き埋めだ!!」
そう言った幻魔は、懐から一枚の呪符を取り出した。
「『飛翼』
【ひよく】
!!」
幻魔がそう言って呪符を掲げると、その背中から鳥のような翼が出現した。幻魔はそれをはばたかせ、自分一人、先ほどできた天井の穴から出て行った。
「ああぁぁぁっ!! 幻魔――っ!! テメェ一人だけっ…卑怯だぞ――ッ!!!」
「何とでも言え!! これで飛べるのは俺一人だけだからなっ、お前らは自分らでテキトーにやってろ!!」
そう言うと幻魔は、文句を言う忍舞と撃斧、そして黒焦げになりつつも今目を覚ました砕武の三人を残したまま空の彼方へ消えていった。
「待て―――っ!」
「まだ勝負は終わってねーんだぞ――ッ!!!」
「そんなことを言っている場合かッ!」
幻魔にむかって叫ぶ白翼神と黒翼神を抱え、双翼神は洞窟の入り口へと急いだ。急いでいるせいか、幻魔同様天井の穴から脱出すればいいということに気付いていないようである。
「放せ――っ! まだ戦い足りねエェェ――ッ!!」
「僕もーっ! 敵倒す――っ!!」
「だからそんなこと言ってる場合じゃないだろ――っ!!」
洞窟崩壊の予兆は、最深部、邪法丸と烈刀丸のところへも届いていた。
「おやおや…どうやら他のところで派手な戦闘があったようですねェ。」
邪法丸はそう言いながら、烈刀丸に突きつけていた剣を下ろした。
「勝負はお預けですね。」
「ふざけるな!! 貴様ッ、勝負の途中でっ…」
烈刀丸は、自分のことを追いつめておきながらこうも簡単に剣を下ろしてしまった邪法丸に怒りを覚えた。
「私は別にふざけていませんよ。…第一、私はあなたのことを殺すつもりはありませんし。」
「そういう態度がふざけていると言ってるんだ!」
「だからふざけていないんですってば。あなたをここで殺してしまったら、まともにやりあえる相手がいなくなってしまうでしょうしね。それではつまらないじゃないですか。」
邪法丸にそう言われると、烈刀丸は頭の中から怒りが消え、すっと冷静になった。
「…そうか、そう言うならまぁ…」
「…ちなみに、罠にかかってくれるということも含めて。」
しかし冷静になれたと思ったのもつかの間、あとに繋げられたこの一言で烈刀丸の怒りは再発火した。
「テメェやっぱりこの場で倒してやる!!!」
「それはお断りです、私は脱出しますので。」
再び刀を振り上げた烈刀丸の攻撃を軽くかわし、邪法丸は岩で隠されていた脱出口を開いた。
「ではっ、さようなら烈刀丸。またお会いいたしましょう。」
「待てぇ―――――ッ!!」
烈刀丸は逃げ出す邪法丸のあとを追おうとしたが、崩れて落ちてきた天井に行く手を阻まれた。
途中で変幻を解いた双翼・黒翼・白翼の三人は、何とか無法党の本拠地である洞窟を脱出した。洞窟はほぼ完全に崩壊し、もはや中に入ることはできそうになかった。
「あー…死ぬかと思った。」
「危なかったねー。」
「…誰のせいだと思ってるんだお前らは…。」
二人を抱えて走ったおかげでゼイゼイと荒い息をしている双翼は、黒翼と白翼の様子を見てあきれた。そこへ、洞窟のそばから烈刀丸が姿を現した。
「あっ! テメェらっ…」
三人に気付いた烈刀丸はすぐに彼らのほうへとむかってきた。
「あー、落とし穴にハマったヒトだぁ。」
「うるせぇ!! テメェらよくもヒトのこと置いてってくれたな!!!」
白翼に言われたことはとりあえず軽く流して、烈刀丸は三人に不満をぶつけた。
「幻魔たちとド派手に戦ってたのはお前らだなっ!?」
「そうだったら何なんだよ?」
「テメェらのせいで邪法丸との戦いが中断されちまったんだよっ!!」
間に双翼が謝罪の言葉をはさもうとしたが、烈刀丸はそれを無視して文句を言い続けた。
「洞窟が崩壊するほどの戦いって…一体どーいう戦法使ってんだ!! もう少しで死ぬところだったんだぞ!!」
「それは皆同じだから。…あ、幻魔は一人で逃げてたから違うかも。」
烈刀丸が言ったことで、白翼が何となく幻魔のことを口にした。すると烈刀丸は急に表情から怒りを消し、素っ気なく答える。
「あー、幻魔ぁ? そりゃ一人逃げるだろうなァ。あいつ、元々邪法丸のこと裏切ろうとしてたし。」
「え!?」
その一言に、三人は耳を疑った。
「え、何? じゃあ邪法丸は、それを知らずに幻魔を部下に置いてたわけ?」
「いや、邪法丸は気付いているさ。なんせ、俺だって以前邪法丸から聞いたんだし。」
黒翼に聞かれると、烈刀丸はそう言った。すると白翼は感心したようにうなずいた。
「へぇ、邪法丸って割とすごいんだねェ。烈刀丸すごくないけど。」
この一言で、烈刀丸の怒りは再び現れた。
「じゃ…邪法丸がすごいのに俺はすごくないっ!? 俺が邪法丸に劣っているとでもいう気かっ!? 言っておくけどなァッ、無法党は今まで何度か本拠地を変えてきたが、俺はそれらを全て自力で発見しているんだぞっ!!!」
「わー、すごい“執着心”〜。」
「マジで殴るぞこのヤロォ!!!」
烈刀丸は白翼にむかって拳を振り上げた。しかしそれは白翼にむかって振り下ろされはせず、代わりに人差し指を出して三人に向けられた。
「とにかく!! 今回のことは絶対に忘れん!! 今回ばかりは見逃してやるが、次に会ったら絶対にタダじゃ置かんからなっ!!!」
烈刀丸はそう言うと、三人に背を向け走り去っていった。
「…自分から僕らのこと誘ってたクセにねェ。」
「全く、勝手なヤツだな!」
「…。」
――どちらかと言うと、我々が烈刀丸が思っていたように動かなかったというところなんだろうがな…――
珍しく意見の合った白翼と黒翼の横で、双翼は一人、そんなことを考えていた。
【次回予告】
不論帝悪村方面へ向けて旅を続ける双翼・黒翼・白翼。
途中立ち寄った茶店で、何がある?
次回登場、
旅の武者 散斬角!