2003/06/17


魔界武者漣月参る!
第二話 死愚裏不隠飛来!!



 平和の戻った天宮の国に一人、平和な世には不似合いな心を持つ男が地面を掘り返していた。
 天宮制圧を企むその男の名は漣月――天宮を制圧しようとした魔界武者・魔刃頑駄無の自称ライバルである。
 そんな彼が地面を掘り返すなど訳の分からぬ行動を起こしたのかというと、その理由は彼の考えた作戦にある。
 彼が今掘っているその地点…地面と言っても、その下は実は過去に倒された闇の者達が埋められている――つまり墓場であった。
「ふっふっふ…良く考えたら、妖怪なんていう本能と邪心だけで動くモンを使おうと思ってたからいけなかったんだ。」
 ――今のセリフは前回、彼が妖怪を率いて天宮制圧をしようとした結果逆に自分が妖怪に追い回された事から出た。そして漣月は、誰に言うでもなく言葉を続ける。
「光の力を持つ頑駄無達に恨みを持つ連中を死霊武者として復活させれば、新世武者軍団なんて一日で滅亡だぜ!」
 知らない人の為に補足しておくと、死霊武者とは、いわゆるゾンビである。邪悪な心を持ったために頑駄無軍団などに倒された闇の者達が、自分達を殺した者に復讐すべく地獄より蘇った者の総称である。ただし、一般的にわいて出てくる死霊武者ははっきりと言って弱い。何か強力な闇の気により復活させられた者ならまだしも、勝手に出てきた死霊武者というのはその戦略は「質より量」の一言に尽きるのだ。
 それを承知なのか、知らないのか、あるいはマトモな死霊武者を作り出す術を持っているのかは分からないが、とにかく漣月はひたすら墓を掘り返した。そして既に掘り始めてから十時間――けっこうな量の死骸が漣月の前に現れていた。
「…コレで77体か…ラッキーセブンっていうしな、これでいいだろう!」
 死霊を扱うのなら4という数字でも使いそうなところだが、何故か漣月は77体で掘り出し作業を終了した。
「さて、あーとーはー…我が呼びかけに答えよっ!! 数々の怨念を晴らす為、今再びこの地に降り立たんッ!!」
 漣月はノリノリでそう唱えた。すると先程までに掘り返した死骸がガチャガチャと動き出し、漣月の前に立ち並んだ。
「はっはっは、成功成功ッ! 後は作戦を練って新世武者軍団を――」
 漣月はそこまで言いかけたが、突如背中に強力な瘴気を感じ思わず振り返った。
 振り返ったそこでは、空間が裂け人一人くらいなら通れそうな穴ができていた。その奥からはかすかに魔界の気がもれている――魔界の何者かが、無理矢理この地点と魔界とをつないだのだ。
「何だ?! まさか、俺以外のこの天宮征服を狙う奴が…!?」
 そう思いながら漣月が身構えていると、その穴から黒い影が飛び出し、死霊武者の群れにツッ込んだ。
「!! 誰だ!?」
 漣月はそう言って死霊武者の群れの中にいるその何者かへ刀を向けた。が、次の瞬間、何だかすごく嫌な音が聞こえてきたのだ。
 がりごりがりごりがりごりがりごり
「…がりごり…?」
 漣月は恐る恐る死霊武者の間を見た。するとそこには、なんと死霊武者を食いあさる一羽の怪鳥がいたのだ。
「ギ…ギィヤ―――――――――――――――――ッ!!!!!」
 漣月はそれを見て思わず声をあげた、が、それに構わず怪鳥は死霊武者を食い続け、ついには77体全てを平らげてしまった。
「な…何て事しやがるこの鳥―――ッ!!!」
 漣月は泣きながらその怪鳥の首元をつかんだ。だが次の瞬間更に奇怪な事が起こる。
 巨大なくちばしが突如垂直に持ち上がってマビサシ状になり、中からヒトの顔が現れたのだ。しかもそれだけではなく、羽の付け根辺りから左右一本ずつの腕が生え、更に足も鳥足からしっかりとしたヒトの足に変わった。
「ばっ…化け物だ――――ッ!!!!!」
 怪鳥である時点で既にこの鳥は化け物だが、急な変幻を目の当たりにした漣月はそう叫ばずにはいられなかった。
「…化け物とは失礼だな、俺は誇り高き魔界の妖獣だっ!」
 ヒト型に変幻し終えたその怪鳥は、漣月にむかって偉そうにそう言った。
「俺は魔獣死愚裏不隠【デスグリフォン】! 美味そうな死霊の匂いがしたんでな、思わずここに来た。」
「ま、魔獣死愚裏不隠…? 聞いたことねーな――――――って、貴様あァッ!! よくも俺の召喚した死霊武者軍団を―――ッ!!!」
 死愚裏不隠の登場にア然としていた漣月だったが、今コイツがしたことを思い出して激高した。
「ん? 死霊武者軍団…? あぁ、なんかやけに沢山いるなと思ったら、お前が召喚してたのか。かなり美味かったぞ、御馳走様。」
「『御馳走様』じゃね―――ッ!!!」
 漣月はそう叫びながら死愚裏不隠の首元につかみかかった、が、突如脱力してその場に倒れてしまった。
「…? どうした?」
 死愚裏不隠は不思議に思って、倒れた漣月の顔をのぞき込んだ。
「……怒鳴ったら……腹減った………ここ二、三日ろくなモン食ってねェんだった……死霊武者の召喚で体力は愚か魔力まで使いきっちまったし……」
「そりゃあ大変だ。ま、頑張れよ。」
 死愚裏不隠は聞くだけ聞くとその場を立ち去ろうとした。しかし、漣月はその翼をとっさにつかんだ。
「待てやコラ……テメェ人の努力を無駄にしやがって……こうなったらキサマに協力してもらうぜ…」
 死愚裏不隠はそういう漣月の気迫に少し押された。

「……で、その協力って強盗かよ?」
 近くの村に連れてこられた死愚裏不隠は、漣月からやる事を聞かされてあきれた。
「何だよ文句あるのか!? 食料の確保だったら、村を襲うのが一番早いだろーが!」
 漣月はそう言いながら愛刀・月読刀【つくよみとう】に手を添えた。
「……ま、地上の村人相手なら大した重労働でもないし、付き合ってやるか。」
 死愚裏不隠はそう言い、どこから出したのか銅剣を持った。
「…お前、その剣どこから出した?」
「ん? コレ? 鳥の時の尻尾と羽。」
「…尻尾? 羽!?」
 漣月は死愚裏不隠の返答に驚いた。
「この刀身が今まで尻尾になってて、剣の横に付いてンのが今まで小さい羽だった奴。分かるか?」
「…訳分かんねぇよ…。」
 漣月は死愚裏不隠の体のつくりが理解できず頭を抱えた。
「…まァいいや、とにかく行くぞ」
 漣月がそう言って立ち上がった時、突如村から悲鳴が上がった。
「な、何だ!?」
 二人は慌てて、村の方へと向かった。

「はっはっは! 命が惜しかったら金目の物と食料を出しなァ!!」
「逆らうと命はねーぜッ!!」
 村の中には、武器を構えそう怒鳴り散らす数人の男がいた。村人達は逆らう事もできずただ悲鳴をあげたり彼らの指示に従ったりしていた。
「…何だ? 何やってんだあいつらは。」
「盗賊が村襲ってんじゃないのか?」
 首をかしげる漣月にむかって死愚裏不隠が言った。
「何、盗賊だと!? しまった、先を越されたか!!」
 漣月はそう言うとザッと立ち上がり盗賊達の方へと向かって行った。
「あ、漣月、何する気だ?」
 死愚裏不隠は漣月の後を追いながら尋ねた。
「決まってんだろ、あの盗賊ども撃退すんだよ!」
「…は?」
 死愚裏不隠は漣月の返答を聞き思わず聞き返した。
「…何でわざわざそんな面倒な事すんだよ?」
「俺が先に目ェつけた村なのに、地上の連中なんざに獲物を横取りされてたまるかよ! ほら、行くぞ!!」
 漣月はそう言うと、盗殺駆達に駆け寄った。
「…やれやれ。…でもま、地上の奴らいじめるのも面白いかも。」
 死愚裏不隠はそう言うと、漣月に続いた。
「待てェそこの盗賊どもッ!!!」
 漣月は盗賊たちの後ろからそう怒鳴った。
「あぁん?」
「何だキサマはァ…」
 盗賊たちは漣月をにらみつけた、が、獲物を横取りされ機嫌の悪い漣月はその程度でひるむはずもない。
「テメェらこの村を襲うってんなら、その前にこの俺・漣月様とその手下・死愚裏不隠が相手になるぜッ!!」
「何で俺が手下なんだよ。」
 死愚裏不隠は不服そうに漣月に言った。しかし、当然漣月はそれを聞いていない。
「さぁ、かかって来やがれザコどもッ!!」
「ザコだと?!」
「生意気な奴だ、やっちまえッ!!」
 漣月の言葉に挑発され、盗賊たちは一斉に二人(一人と一匹)に襲いかかった。
「クックック、ザコにザコって言って何が悪いんだよ。くらえっ、我流・勢覇抹消剣【せいはまっしょうけん】っ!!!」
 漣月は月読刀を振り上げ、盗賊の一人に正面から斬りかかった。漣月は『勢覇抹消剣』と技名を叫んでいるが、やっている事はどう見てもただの真っ向両断である。だがそれはともかく、魔界武者である彼の腕力は地上の者以上で、盗賊の一人をいともたやすく倒した。
「おー、やるねぇ。…じゃ、俺も。妖水破【ようすいは】ー!」
 死愚裏不隠は一旦鳥形に戻って口を開き、そこから一気に大量の水を勢いよく放射した。それを正面からくらった盗賊二、三人が水に押されて吹き飛ばされ、民家の壁に激突した。…ちなみに、このとき死愚裏不隠の口の中にヒト型の時の顔が見えたかどうかは分からない…事にしておこう。
「なっ…何だコイツっ……ヒトじゃねぇっ!!!」
「ば、ば、ば…化け物――――ッ!!!」
「ひ、引き上げだ―――ッ!」
 死愚裏不隠が変幻したのを見、盗賊たちは大慌てで逃げ出した。先程まで偉そうな口をきいておきながら、何とも情けない連中である。
「はっはっは、見たか! この漣月様の力を! はーっはっはっはっはっは!!!!」
 大した活躍もしていない漣月は高笑いをした。
「…バカだな。」
 死愚裏不隠はボソリと言ったが、漣月は全く聞いていないようである。いまだ高笑いを続けていた。
「どうもありがとうございました。」
 笑っている漣月やあきれている死愚裏不隠の元へ、村人達が集まってきた。
「あなたたちのおかげで物を取られずにすみましたよ、本当にありがとうございました。」
 漣月が何の目的でここにきたのかを知らない村人達は二人に感謝の言葉を述べた。漣月はこの人々を再び絶望に叩き落してやろうと思いニヤリとした。
「いや、いいってことよ! どうせ俺も物をとりに」
「何もない村ですが、せめて晩御飯をご馳走させてください! 腕によりをかけて料理を作りましょう!」
「何ッ!? 飯だとっ?! 是非食わせてくれっ!!」
 漣月は今の言葉に、先程までの邪心をすっかり忘れた。

「また来てくださいねー!」
「来てくれたらきっとまたご飯ご馳走しますよー!」
「おう! またなー!!」
 満腹になってすっかりご機嫌の漣月は、笑顔で村を後にした。
「いやー、食った食った! 地上の飯も悪くねーなァ!!」
「……なァ漣月……」
 笑顔で歩く漣月に、死愚裏不隠は言った。
「ん? 何だ死愚裏不隠?」
「……お前、何のために地上に来たんだ?」
「何って…天宮を征服して、俺が魔刃よりも優れている事を証明するのさ!」
 漣月は自信満々に答えた。
「……じゃあさ…何で村人助けた挙句、仲良くなって帰ってンの?」
 二人の間に、長い沈黙が続いた。


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