2007/06/18


魔界武者漣月参る!
第三話 金刃雷都の街の攻防!!



「天宮【アーク】征服は一日にして成らず!!」
「いきなり何言い出すんだよ。」
 急に叫んだ赤い武者に対し、水色の鳥が冷ややかな目で見ながら言った。
「フン、鳥のお前にはこの言葉の意味が分かるまい!」
「いや俺魔獣だし、それに分かるから。天宮は一日じゃ征服できないってことだろ? とーぜんじゃん。」
「その通り、よく分かったな死愚裏不隠【デスグリフォン】っ!」
「漣月【レンゲツ】、お前俺のことバカにしてるわけじゃないよなぁ?」
 えらそうに頭をなでてきた赤い武者・漣月をにらみながら、水色の鳥・死愚裏不隠は言った。
「…で、何でいきなりそんなこと言い出したんだ?」
「よくぞ聞いてくれたっ!!」
 漣月の手をどけて死愚裏不隠が聞くと、漣月は嬉しそうに言った。
「俺は魔刃【マジン】を超えるために天宮征服を狙っている……しかし、たった一日で天宮を征服できるはずはない!!」
「ガキでも分かるな。」
「そこで、俺は確実に天宮を征服するための作戦を今思いついた!!」
「思いつきかよ。」
「天宮の中心は烈帝城【れっていじょう】と破悪民我夢【バーミンガム】の街だ!」
「どっちもまだ復興中だけどな。」
「そこでまずはその周りを征服し、最後に烈帝城を攻める!!!」
「天宮の隅っこは征服しなくていいのか?」
「いちいちうるさいぞ!!」
 上機嫌のところに茶々を入れられ、漣月は拳を振り上げた。
「うるさいのはどっちだよ。…まぁいいや、とりあえず聞いてやるから続けてみ。」
 死愚裏不隠はそう言いながらヒト型に変幻すると、地面に腰を下ろした。
「『とりあえず』ってのが気になるが……とにかく俺は破悪民我夢の街の近くから征服していく! スミのほうは中央を押さえてしまえばどうにでもなるだろう!」
「わー、曖昧な作戦ー。」
 ガスッ
 再び茶々を入れてきた死愚裏不隠を、漣月は力一杯殴った。
「ぐぅっ…何をするッ!! ヒトがせっかく相槌を打ってやってるのに!!」
「そういうのを相槌とは言わん!! まったく、こっちは真剣かつ熱心に言ってるんだぞ!」
 口元(?)を膨らませて怒る死愚裏不隠を見、漣月は腕を組んで目をつり上げた。
「…とにかく死愚裏不隠、金刃雷都【キンバライト】の街へむかうぞ!」
 漣月はそう言うとくるりと向きを変え、歩き始めた。
「…『むかうぞ』って……俺も一緒に行くわけ?」
 死愚裏不隠が後ろからそう声をかけ、漣月は歩き始めてすぐに立ち止まった。
「え? そりゃ当たり前だろ。」
「何でさ?」
「お前俺の手下だし。」
「それはお前が勝手に言ってるだけだろ。俺はこの前、お前の召喚した死霊武者【しりょうむしゃ】につられて魔界から出てきた、それだけ。」
「『それだけ』って……ここ数日、俺が畑とかから盗んだ食い物お前も食ってたじゃねーか!!」
「それはそれ。とにかく俺はお前の手下なんかじゃない。」
 死愚裏不隠はそう言い切ると、プイとそっぽを向いた。
「そーか、まぁ言われてみりゃそーだな……じゃあ今日から手下な。」
「それもやだ。」
「いいじゃねーか、俺が天宮を支配したら、魔獣とはいえおまえだって俺の手下だからかなりの地位につけるぞ。」
「俺魔獣だから地位なんていらない。」
「そう言うなよ、毎日好きなもん食えるぞ。」
 今の漣月の言葉を聞いた瞬間、死愚裏不隠はピクリと反応し、漣月のほうを少し見た。
「…地位は要らないけど食事の確保はいいかも…」
「だろ?」
「あーでも、俺の一族って死霊武者好きだから魔界軍に害鳥扱いされて、だいぶ前にかなり大規模な掃討作戦行われてんだよなー…」
「え、そうなのか?」
 死愚裏不隠が急に言い出したのを聞き、漣月は少し驚いた様子を見せた。
「それに俺、こう見えても変幻や言語理解ができる特別種なんだよ。かなりの地位どころか、逆に捕えられて実験台か何かにされたらどうしよう…」
「うわ、ありえねェ。」
 べしっ
「ぐはっ! 羽でヒトを叩くな!! しかもテメェ目狙いやがって…」
「失礼なんだよお前は!」
 死愚裏不隠はそう言うと、ばさりと羽をはばたかせ、宙に飛びあがった。
「とりあえず、俺はやめる。天宮征服なんてお前にはできっこないと思うけど、やりたきゃ勝手にやってれば? じゃーな。」
「まーまー、晩飯に死霊武者召喚してやるからよ!」
 ぴたり、死愚裏不隠の動きが止まった。
「ど…どーせ約束破るだろ?」
「破らん破らん、何ならその証に、おやつとして今一体召喚してやろうか。」
「い、いらない…」
「ふーん、そうか? …この地に眠る死霊よ、我が呼びかけに答えよっ!! 数々の怨念を晴らす為、今再びこの地に降り立たんッ!!」
 漣月がそう唱えると、地面からぼこりと死霊武者が一体出現した。
「さ、死愚裏不隠、食っていいぞ!」
『!?!?』
 漣月のそのセリフに、死愚裏不隠より先に死霊武者が反応した。そしてその直後、手にしていた「亡者刀【もうじゃとう】」(死霊武者の刀)を振り上げ、漣月に襲い掛かった。
『…! ……!!!!!!』
「ぎゃ―――!?!?」
「な…何やってんだよ漣月?」
「し、知るかっ! コイツが急に暴れ出してッ…」
「…まー、『怨念晴らすために出て来い』って言われたから出てきたのに、いきなり俺に『食っていいぞ』じゃ反抗するよな、普通。」
『…! …!! …!!!』
「ぐわああぁぁぁ殺されるううぅぅぅ!!」
「……。」
 死愚裏不隠はしばらく漣月と死霊武者のやり取りを見ていたが、やがて溜息をつき、死霊武者を頭からほおばった。そして十秒としないうちに、死霊武者をたいらげた。
「た…助かった…。」
「全く、世話が焼けるな。」
「いやぁ、スマン。…しかし、死霊武者を食べたってことは、商談成立だな!」
「え!?」
 急に漣月がにやりとして言ったため、死愚裏不隠はギョッとした。
「俺、晩飯に死霊武者召喚するから手伝え、って言ったろ? んでもって、約束破らない証に、おやつとして死霊武者一体召喚したし、お前をそれを食べた。食べたからには給料の一部を前払いで受け取ったってことだから――」
「…しまった……じゃあさっきのは演技…?」
「いや違……じゃなかった。そう、正にその通りっ! 言い方は悪いが、お前はまんまと俺の策にはまったのさ!!」
「…。怪しいけど、まぁいいや。晩ご飯確保のためだ、手伝おう。」
 死愚裏不隠はとうとう諦め、うなずいた。
「よし、そうと決まりゃ話は早い、金刃雷都の街へ行くぞ!」
「…でもさ、晩ご飯までに到着できんの?」
「大丈夫大丈夫、ぶっちゃけ金刃雷都の街って、俺らのいる位置からそんな遠くねーもん!」
「…ふーん。」

「つーワケでここが金刃雷都の街だ。」
「展開早ッ!!」
「あそこにデカい家があるだろ? 何か金持ちっぽくて街の中心な感じがするから、まずはあそこを狙おうと思う。」
「俺の第一声無視? …つーかあの家、確かにデカいけど街のはじのほうだぞ。」
「だって、街の長って金持ちなんじゃねーのか?」
「街の長以上の大富豪とかがいるかもよ?」
「う……い、いいじゃねーか! 町の長じゃなかったとしても、きっと金とか色々手に入る!」
「あーあ…先が思いやられるねェ。」
 死愚裏不隠が言うと、漣月は黙り込んだ。
「つーかそもそも、この街だってまだ半分くらいは復興中じゃん。たまたまあの家が壊れなかっただけかも知れな」
「さて今回の作戦だが」
「開き直り早いよ!」
「いいから聞け! とりあえず、あの家を襲撃する。しかし、正面から攻め込めば、返り討ちにあうかも知れん。そこで死愚裏不隠、まずお前があの家を訪ねて住人の気を引く。そのスキに俺が裏に回って、家に忍び込むんだ。」
「はい、質問。」
「何だ?」
「俺が訪ねていったとしても、家の人全員が出てくるわけじゃないだろ。そしたらどうするんだ?」
「大丈夫、お前がちょちょいと目の前で変幻でもしてやれば、驚いてヒトが集まるだろ。」
「でも家に忍び込むって……泥棒じゃないんだから、大々的に襲い掛かればいいじゃん。」
「だから、忍び込んで火を放つんだよ! そうすりゃ家の奴らは大慌て、そのうちに街中が騒ぎになるぞ!」
 死愚裏不隠はそれ以上質問(ツッコミ)を続けなかった。
「…珍しい、今回はそこそこ考えてンだ。」
「珍しいとは失礼だな。いつも考えてるだろ。」
「どーだか……。まぁそれはいいや。んじゃさっきの死霊武者分、働いてきてやるよ。」
「おう、しっかりやれよ!」
 漣月は死愚裏不隠を見送ると、目標の家の裏へと回った。

 家の周りは垣根で囲まれていて、漣月が侵入を試みようとする地点は、庭に面しているらしかった。ちょうど街の角のあたりに建っているため、隣に面する家は少なく、人通りもほとんどなかった。
「さて、そろそろ死愚裏不隠が表に回った頃だろ。行くか!」
 漣月は独白すると、垣根をよじ登り始めた。しかしそのとき、中から声がするのに気が付いた。何かの掛け声のようだ。よく聞くと、何か細い棒を振るような音も交えている。それは、少年のような青年のような、とにかく若い男のもののようであった。
「…やっべ、ヒトがいンのかよ。まぁ、いいか、一人みたいだし。一対一なら地上のヤツなんかに負けるつもりないし。」
 一瞬ためらいながらも、漣月は垣根を上りきった。そして、頭だけを出して中を覗き込むと、そこにいた男と目があった。垣根にしがみつきながら独り言を言っていたのだから、気付かれるのも当然である。そこにいたのは、紫の鉢巻を巻いた、長髪の少年だ。手には木刀を持っており、どうやら剣術稽古の途中だったらしい。
「何者だ!?」
 少年は木刀を漣月に向けながら言った。
「フン、俺か? 俺は魔界武者の漣月!」
「魔界武者? …見えないな。」
「なッ…」
 漣月は垣根からズルリと滑り落ちた。
「み、見えないって……テメェ魔界武者見たことないだろ!?」
「遠目に、巨大化した魔刃頑駄無を見た記憶はある。あの邪悪さは本当に恐ろしいものだった……しかし、お前からはそんなものかけらも感じられない。」
「オイコラちょっと待てェ!! テメーみてーなガキに言われる筋合いねーよ!!」
「ガキとは失礼な。確かにまだ元服前だが、あと一月で大人だ。」
「ガキはガキじゃねーか!」
「魔界武者を自称するような、おとなげない大人が言うことか。」
「本物だってーの!!」
「…じゃあ…魔界武者と一口に言っても、色々いるということか…。」
「コラァ―――――――――――!!」
 ムキになる漣月に対し、少年はいたって冷静である。漣月にはそれがまた気に食わなかった。
「さっきから言わせておけばっ…俺の恐ろしさ思い知らせてやる!」
 漣月は刀を抜き、全身に力を込めた。「気」が全身から放たれ、黒い霧のようなものが漣月から湧き上がった。
「こ…これは…!?」
 少年は一歩、後ずさりをした。漣月から放たれた霧は、闇の気である。少年はその気に、あの魔刃頑駄無に似たものを感じていた。そのとき、漣月が本当に魔界武者であることは、いやでも思い知らされたのだった。
「おおおぉぉっ!!」
 漣月が気合を込めた雄叫びを上げた。少年はかすかに震えつつ、勇敢にも木刀をかまえ直して漣月に向け、全神経をその切っ先に集中した。
 ゴオォ……ぷす。
 闇の気の渦巻く音が、突如、間抜けな音と共に途切れた。漣月から湧き上がっていた気は、そのまま彼の頭の上から抜け、全て消えてしまった。
「……あれ?」
 漣月は再び力を込めた。しかし、抜けてしまった闇の気は、そうすぐにまた湧き上がってきてはくれない。少年は少しの間あっけにとられて立っていたが、ハッと気がついて、木刀を振り上げた。
「覚悟!」
「え、あ、待て! ちょ…」
「てあぁ――――――ッ!!」
 スパ――――ン!
「痛てえぇぇぇぇッ!!!」
 少年の木刀が漣月の頭をカチ割った。いや、正確には割れてはいないが。しかし、真剣だったらそのまま真っ二つだったに違いない。頭頂部からあごまで、垂直に衝撃が走っていた。
「このガキが――ッ」
「やあぁ―――ッ!!」
 ズン!
 今度はみぞおちに木刀が突き刺された。
「ごはっ! げほっげほっ…」
「まだ息があったか―――!!」
「うわあぁぁ!!!」
 漣月は思わず垣根に飛びつき、よじ登った。そこから反対側、家の外へと身を乗り出し、地面に落下してから走り去った。

 漣月は無言で、先ほど死愚裏不隠と別れた地点まで戻ってきた。少年にメタメタにされたおかげで、息は切れ切れ、プライドもズタズタだった。
「あ、漣月お帰りー。」
 死愚裏不隠の声がしたため、漣月は顔を上げた。そこには当然声の主が立っていたわけだが、その手にはまんじゅうが握られていた。
「…何だそれ?」
「いやー、あの家を訪ねていったらさー、何か女中らしきヒトが『かわいー』とか言ってきて、くれた。」
「はい?」
「んー、俺比較的小柄だから、子供が鳥の変装してるとでも思ったんじゃね?」
「…イヤ、そうじゃなくて……会ったのって女中一人?」
「あぁ。すぐに『奥様が呼んでるから、またね。』って、戸ォ閉められた。」
「……ヒト集めて足止めしろって言っただろ?」
「まんじゅうもらったし、もういいかなって。」
 死愚裏不隠はもそもそと饅頭を食べ始めた。
「ふ…ふざけんな――――――ッ!!!」
 漣月が叫びながら抜刀すると、全身から強い「気」が放たれ、黒い霧のようなものが漣月から湧き上がった。
「テメェがまんじゅうもらったところで俺の目的は何も達成されてねぇんだよこの役立たず――――!!!」
 漣月の放つ黒い霧――闇の気はますます強くなり、ゴゥゴゥと音を立てた。「バサッ」と音を立てて翼を羽ばたかせると、小さかったそれが大きく広がり、漣月の体が宙に浮かんだ。
「必殺・斬波輪月【ザンパリンゲツ】!!」
 下から上へと振り上げられた刀の軌跡が、闇の気と合わさって三日月形の刃となり、回転しながら死愚裏不隠に襲い掛かった。
「わあぁ!?」
 死愚裏不隠は転んだも同然でそれをかわした。斬撃は地面に溝を作りながら翼をかすめ、その先にあった木を真っ二つに斬り裂いた。数秒間の沈黙。やがて「ギギ…」と音を立て、半分になった木が左右にゆっくりと倒れた。
「……………………」
「……………………」
 真っ二つになるところだった死愚裏不隠はもちろん、技を繰り出した漣月までも、ポカンとその場に立ち尽くした。
「…見たか、コレが俺の実力!!」
「って言うかお前殺す気か!」
「よーし、技が出るなら怖くねェ、もっかい行くぞ!!」
 文句を言う死愚裏不隠を引きずりながら、漣月は先ほどの家へとむかった。

「たのもー!!」
 大声がしたため、少年が振り向いた。
「この声は…さっきの?」
 あたりを見渡したが、あの赤い鎧の自称魔界武者はいない。首をかしげていると、垣根の向こうからがさがさと音がした。
「よっ……とう!」
 漣月は垣根を登り終えると、そこから敷地内へと飛び降りた。死愚裏不隠もまた、それに続いて降り立った。
「また来たか……しかも、同じところから……」
 少年はあきれた声を出した。
「フン、何とでも言え! しかし、いつまでそうしていられるかな!? やれ、死愚裏不隠!」
「へいへい。」
 漣月に促され、やる気なさそうに死愚裏不隠が動いた。
「何だ、仲間を連れてきたのか!? 臆病者め!」
「うるさいなー、どーでもいいじゃーん。」
 死愚裏不隠は鳥の姿へと戻り、口を開いた。
「妖水破【ようすいは】ー。」
「ぶわっ!」
 大量の水を浴びせられ、少年はひるんだ。
「よっしゃくらええぇ!!」
 待っていましたと言わんばかりに漣月は抜刀、力を込めた。全身から闇の気が放たれ、黒い霧が漣月から湧き上がった。
「何っ……」
 先ほどよりはるかに強い「気」に、少年がたじろぐ。死愚裏不隠は水を吐き終えるとその場から離れた。
「くらえ必殺!!」
 ぷすっ。
 再び間抜けな音がした。またしても闇の気は、上のほうへと消え失せた。
「………。」
「………。」
「………。あれ?」
 漣月は刀を振った。しかし何も起こらない。翼を動かした。やはり何も起こらない。
「漣月――――――!!」
「や、ちょ、待て、あれっ!?」
 死愚裏不隠に怒鳴られ、漣月は慌てた。しかしいくら慌てたところで、闇の気は湧き起こらない。
「あのー。」
 少年が声をかけた。振り向いて見ると、真顔で、刀をしっかりと構えている。
「蒼突【ソウトツ】!!」
「ギャ―――!!」
 少年は漣月に向かってすばやく木刀を突き出した。逃げようとして背中を見せたため、翼の付け根に攻撃は集中する。
「紅斬【コウザン】!!」
「うわ―――!!」
 今度は死愚裏不隠に向かって、木刀を横に振り払った。そこから衝撃波が生まれ、死愚裏不隠が吹き飛ばされた。
「二人とも出てけ――――!!!」
 少年は更に木刀を振り追い回した。漣月・死愚裏不隠は敷地内をぐるぐると逃げ回り、最終的にはまた垣根を飛び越え逃げ出すこととなった。
「……全く!」
 少年は木刀をおろすと、ため息を一つついた。

「退却っ、退却ーっ!!」
 垣根から降りた漣月は、刀をしまうのも忘れて走り出した。その後に死愚裏不隠も続く。
 ドン!
 前をきちんと見ていなかったため、何かに激突した。同じく前を見ていなかった死愚裏不隠は、漣月の背中にぶつかった。
「いて……」
「何だ、こいつは!?」
 しりもちをついた二人が顔を上げた。そこには、屈強そうな男たちが数十人、立っていた。皆鎧をまとったり道着を着ていたりしているため、武術に関わるものであろう。
「こいつ、今垣根を越えて…」
「道場から出てきたってことか?」
「道場…?」
 漣月は今までいたほうを見た。そう言われてみれば、道場のようにも見える。それに道場であるなら、庭で少年が稽古をしていたのも至極自然である。
 …つかこの集団、もしかして…
「…漣月、こいつらひょっとして道場の門下生じゃ…」
 死愚裏不隠が耳打ちした。ちょうど漣月もそう考えていたところだ。
「今道場は翼丸【ヨクマル】一人のはずじゃ…」
「屋敷にだって女しかいないぞ!」
「じゃあまさかこいつら…」
 漂うイヤな予感。
「曲者を捕らえろッ!!」
「おぉっ!!!」
「ギャ―――――――――――――――――!!!」
 多勢に無勢、二人は日が沈むまで追い回された。


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