魔界武者漣月参る！～天宮征服大作戦！！

2003/04/21

魔界武者漣月参る！
第一話　天宮征服大作戦！！

　刕覇大将軍の活躍により平和を取り戻した天宮の国…
　町や村の復旧作業も着々と進み、最近はやっとのことながら烈帝城の再建も始まっていた。
　人々の心は、蘇ってゆく天宮の国のこれからの事で、希望に満ちていた――もう、魔刃頑駄無のもたらした惨状の事は、遠い記憶の事となっている。

――そんな平和な天宮の国に、ある野心を持った一人の男が姿を現した。
「…ここが、我が宿命のライバル・魔刃でさえも落とせなかった天宮の国か……クックック、つまりこの俺がこの国を支配すれば、俺の実力が証明される、って事だな…」
　その男は魔界武者――名を漣月【レンゲツ】と言う。漣月はあの魔刃頑駄無のライバルであった。この漣月が魔界からはるばる天宮へと来た理由はただ一つ――ライバル・魔刃頑駄無の倒せなかったあの刕覇大将軍を倒し自分が魔刃よりも優れている事を証明する為であった。
「…しかし、刕覇大将軍ってのは一体どこにいるんだ？やっぱ大将軍ってくらいだから、城にでもいるんだろーなー。」
　漣月はそう言いながら、天宮の国の城なんだからさぞかし立派な物なのだろう、という固定観念を元に辺りを見回した。しかし烈帝城は、鉄機武者軍団が魔刃に操られ反乱を起こしたその時に既に焼き落とされたので、冒頭で言ったように現在再建中である。
　しかしそんな事全く知らない漣月は、とにかく大きい建物を探した。
「…でかい建物ー…でかい建物ー……あっれー？おっかしいなー、せっかく山の上から見回してるってのに、何にも見えねーぞ！」
　ちなみに漣月の現在位置は悪無覇域夢山【アナハイムさん】…烈帝城のあった位置からかなり離れている物の、その標高はかなりの物である。漣月は、その高い山からなら烈帝城が必ず見えるとふんでいた。
「……さては新世武者軍団め…魔刃の襲撃以来誰かが攻めて来るのを恐れて、どこかに城を隠したな！？ふっふっふ、いい心構えじゃねーか！よーし、見てろよー！この俺が絶対に探し出して、魔刃の時以上恐ろしい目に遭わせてやるからなー！！」
　漣月はそう言いながら、背中に生えている小さな羽で飛んだ――が、その羽が小さすぎてそのまま十メートル以上下の地面へと墜落する。
「……………。」
　魔界武者の漣月は地上の者よりも体が丈夫で、この高さから落ちても大した傷は負わなかった。だがそれでも、全身に激痛が走りそのままうずくまって震えていた。
「……ちくしょう、そういやそうだよな……闇の力で飛ぶこの羽じゃあ、光ある天宮の国で飛べるはずねーよなー………歩いて行くしかねーのかよ…」
　漣月はそう言いながら立ち上がり、あきらめて歩き出した。

　夕日が地平線の下に消え、暗い空は美しい星々と見事な満月に制された。だがその美しい景色と裏腹に、夜というこの時間は妖怪たちの時間でもあった。
「……いくら光りある天宮と言えども、妖怪と言う存在まで消える事はない。こいつらを上手く利用すれば、天宮征服も訳ないって事だな！かーっ！俺って、あったまいー！」
　昼間中闇雲に歩いた結果いまだに悪無覇域夢山から出ることのなかった漣月は、木に寄りかかりながらそう言った。
「妖怪の中には新世武者軍団とかに恨みを持った怨霊もいるからなー、コイツを利用しない手はないぜ！ …それに魔界武者の俺なら、妖怪どもを制するのだって訳ねェ！」
　漣月はそう言いながら辺りを見回し、妖怪のいそうな場所を探った。
「…妖怪、妖怪、っと……何か強い奴か賢い奴がいいなー。」
　漣月はそうブツブツ言いながら悪無覇域夢山を歩き回った。そして深夜二時を回った頃、草陰に何かの気配を感じた。
「妖怪か！？」
　漣月はすぐさま草陰に注目し、そこにいる何かの正体を確かめようとした。が――
「…何もいない…？」
　漣月は草をかき分けながら首をかしげた。確かに何かいる気がしたのだが、いくら探しても、小動物や虫の一匹すら出てもなかった。
「……俺とした事が、勘違いだったか。」
　漣月はやれやれと首を横に振り、その草場に背を向けた。と、その時…
『……うらめしい……』
　先程の草場から声のような者が聞こえ、漣月は思わず振り返った。
「…何だ、何かいるのか？」
　うらめしいって言うと、怨霊の類かな？そう思った漣月は、再び草陰をのぞき込んだ。
「おーい、怨霊！そこにいるんだろ？俺は魔界武者の漣月ってんだ！一緒に新世武者どもを倒そうぜ！」
　漣月はその、霊と思われる存在に向かって言った。すると、少しして、先ほどと同じ声で返事が来た。
『うらめしい…うらめしい……何故私が死なねばならないのか…………私は何も悪い事をしていないのに……』
　その声の調子は次第にはっきりとしていき、そして霊の姿が漣月の前に少しずつ現れてきた。
「お？出てきたな。さ、俺と一緒に…」
『うらめしい…うらめしいぞ、魔刃頑駄無……』
「え？」
　霊の発言に、漣月は目が点になった。
「ま、魔刃って……お前誰…」
『私はただ山の中に狩りに出て来ただけなのに……魔刃頑駄無のせいで私は死んだ……うらめしい、うらめしい……憎い…憎いぞ、魔界武者……』
　霊はそう言いながら、その視線を漣月の方へはっきりと向けた。
「え？ …あ、あのー…」
『許さん……許さんぞ魔界武者ッ！！！！！』
　霊はそう言い終わった次の瞬間、漣月めがけて突進してきた。
「うっ、うわあああぁぁぁぁぁ！！！ま、待て！俺は魔刃じゃない！！」
『許さんぞ、魔刃頑駄無……魔界武者――――――！！』
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！」
　何を言っても話を聞かない怨霊に追い回され、漣月は死にそうな思いで走り続けた。霊体の体当たりなど一見大したこともなさそうだが、この場合そのままとり殺されてしまう可能性が高いことは漣月にははっきりと分かった。
『許さん、魔界武者！！』
「ごめんなさい、許してええぇぇぇぇぇ！！！」
　漣月の逃亡劇は、朝まで続いた…

　翌朝――天宮の北方・俄雲乱土【ガウンランド】付近に、疲れ果てた漣月は倒れていた。どうやら一晩中彼につきまとっていたあの怨霊は、朝日と共に消えたようである。
「……ま…まさか魔刃に殺された地上の者が化けて出るなんて……おのれ魔刃め、さすがは我がライバル…死んでも俺の邪魔をする気だな…！？」
　漣月はそう言いながら空を見た――死んだ魔刃が天国に行ったとでも思ったのかも知れないが、魔刃はきっと地獄行きだ。だが疲れ果てた漣月には、そんな事すら考えてはいられなかった。
「……フフフ…あきらめん、俺はあきらめんぞ、魔刃よ！！俺は必ずッ！お前よりも優れているということを証明してやるからな―――！！！」
　漣月は空に向かってそう叫んだ。直後、漣月の後ろで物音がする。漣月は何かと思い、振り返った。
『ギャッスラ―――！！』
『グワ～～～ラ！』
「……え？」
　漣月の後ろにいたのは、数十匹の大型の妖怪であった。朝になり眠りについていたのだが、漣月の大声で叩き起こされたのだ。当然その機嫌は、悪い。
「……な、何…？俺になんか用…？もう妖怪と一緒に天宮征服ってのはやめたんだけど………な、何だよ…何で近付いて来んだよ……く、来るな……もう沢山だ……それ以上近付かないで…ぎゃ、ギャ―――――！！！」
　すっかり妖怪嫌いになってしまった漣月は叫びながら駆け出した。そしてその後を妖怪が追う。

　――この平和な天宮の国に降り立った、天宮征服を目論む魔界武者・漣月…彼の野望は、まだ始まったばかりである――

「いや―――！！いや―――！ちくしょー、何だかよく分かんねぇがとにかく覚えてろ刕覇大将軍―――！！！」

　――漣月は、既に刕覇大将軍が武者紅零斗丸と鉄機武者真星勢多に戻ったと言う事実を、知らない…

※ 緊急告知！ 冒頭の漣月紹介文の変更
　漣月はあの魔刃頑駄無の自称ライバルであった。この漣月が魔界からはるばる天宮へと来た理由はただ一つ――勝手に決め付けている自分のライバル・魔刃頑駄無の倒せなかったあの刕覇大将軍を倒し自分が魔刃よりも優れている事を証明する為であった。しかし彼は、自分の名が魔刃頑駄無に知られていなかったという事実を知らない…