元覇道闇軍団副官三人衆は、隊長達と合流するため烈帝城を目指していた。
しかしそんな彼等に、空腹に続き新たな危機が訪れていた。
「・・・武器がない!?」



新SD戦国伝 機動武者大戦 後日談 〜副官たちのその後〜
<第三話 〜苦労〜>



「な・・・・・・ななな何で武器がねェんだよォ!?」
 鋼殻が、敵のほうを向いたまま言った。それに幻妙と黄金蜘蛛が答える。
「し、知るかそんな事!!」
「・・・まずいぞ・・・さすがにこの状態では・・・!」
 闇軍団の残党に囲まれた三人は、昨日まで近くにあったはずの武器がなくなったことにより、窮地に追いつめられていた。しかも、敵に気を付けつつ近くを見回しても、武器どころか鎧さえも見当たらないのだ。
「くっくっく・・・・・・どうした? 俺たちの余裕を打ち砕くんじゃなかったのか?」
 敵の一人が、慌てている三人の方を見、薄笑いを浮かべながら言った。
「・・・鋼殻! 得意の体術でこいつら一掃しろ!」
 幻妙が鋼殻の方を見て言った。
「バカ言うなよ! 素手で武器持った相手に接近戦挑むんなら、せめて鎧や、武道着ぐらい無いとやってらんねェよ! 幻妙、お前こそお得意の念力で何とかしろ!」
 鋼殻はそう言い返した。
「無茶言うな、この人数相手に念力を使うなら、強力なので一気に終わらせないと後々きついんだ! しかし妖蛇の杖【ようじゃのつえ】がない限りは念力もあまり強力な物は使えないし・・・黄金蜘蛛、お前は!?」
「・・・毒斧【どくふ】も六足長刀【むそくなぎなた】もない上、鎧にある毒爪も使えない・・・一体何で戦えって・・・?」
 幻妙に聞かれ、だいぶ追いつめられてきたような声で黄金蜘蛛が答えた。
「ほらほら、どうするんだ? 大人しく金目の物を出せば、今からでもここを通してやるぜ? それともやっぱり戦うのか? ま、丸腰じゃ俺たちには勝てねぇだろうがなぁ、はははははっ!」
 困っている三人を見、敵は更に挑発してくる。
「こンのヤロォーッ! やってやろーじゃねっ・・・」
「待て鋼殻!!!」
 挑発に乗り戦い始めようとする鋼殻を、黄金蜘蛛がおさえた。
「このままじゃ分が悪い。戦うのは得策ではないぞ!」
「だからって大人しく引き下がれるかァ――!!」
 鋼殻はすでに頭に血が昇っていて、黄金蜘蛛の言うことを聞きそうになかった。
「いいか、ここでやられてしまったら、我々はもう隊長たちと合流出来ないかも知れんのだぞ! ここはまず、一旦退いて作戦を立てよう!」
 黄金蜘蛛は、鋼殻を説得した。さすがの鋼殻も隊長らと合流できないのは困ると思い、かなり渋々と従った。
「とりあえず、鋼殻、お前は敵を一人殴るなり蹴るなりして倒してくれ。相手がこの人数なら、恐らく振り切れるだろう。隙が出来た所を一気に駆け抜ける! 幻妙、お前は、逃げる途中に敵が近づいたら念力で対処してくれ。俺は近くの棒か何かを取ったら参戦する!」
 黄金蜘蛛が二人に小声で指示し、二人がうなずくのを確認すると、三人は敵の方を向き戦闘態勢をとった。
「お、何だ、結局戦うのか。まァ、どっちみち俺たちが勝・・・」
 敵がそこまで言った瞬間、鋼殻は一気に間合いを詰め、今まで話していた相手のスネに強力な一撃を喰らわせた。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!」
 骨を折らんばかりのパンチに、喰らった相手はまともに声も出せずその場に倒れこんだ。
「今だ、行くぞ!!」
 黄金蜘蛛がそう言うのとほぼ同時に、幻妙と黄金蜘蛛は走り出した。そして鋼殻もそれに続く。
「な、貴様ら逃げる気かッ! 待てっ!!」
 敵の残り五人は、すぐに三人の後を追った。その足は割と速かったのだが、それ以上に副官三人の足のほうが速かった。
「あ、案外このまま逃げ切れるんじゃねェのか?」
 全力疾走しながら、鋼殻が二人に言った。
「安心するのはまだ早い! 我々よりも、やつらのほうがこの地形に詳しかったとしたら、先回りされる可能性もある――・・・・・・・・・って、幻妙ー?」
 黄金蜘蛛は鋼殻の言葉に答えるが、走り始めた時にすぐ横にいたはずの幻妙がいない事に気付き、少し後ろを見る。すると、早くもバテ始めている幻妙の姿があった。
「幻妙ー! お前遅せーぞ!! 早くしねェと奴らに追いつかれちまうだろーが!!」
 鋼殻は幻妙の方を見て文句を言った。
「う、うるさい!」
 どうも、念力を中心に戦っている幻妙は、黄金蜘蛛や鋼殻ほど体力がないらしく、だんだんと二人との距離が開いていった。
「!! 鋼殻!! 前、前ッ!!!」
 急に黄金蜘蛛が、後ろを向き幻妙に話し掛けている鋼殻の方へ叫んだ。
「え? ・・・って、おわったあァ――!?!?」
 黄金蜘蛛と鋼殻は、突如として走るのに急ブレーキをかけた。
「どうした!? ・・・えっ!?」
 後ろからぜいぜい言いながら走ってきた幻妙も、二人の近くまできて足を止めた。
「な・・・何で? 何だよこれェ―――!?」
 三人の行こうとした先は、何故か崖になり、下には川が流れているらしい谷があった。
「黄金蜘蛛ッ!! ここって森じゃあなかったのかよぉ!?」
 鋼殻が、慌てて黄金蜘蛛の方を見、言った。
「お、俺にもさっぱり・・・まさか知らずに山に迷い込んだとか・・・!?」
「んなバカな―――!?」
 三人が言葉の遣り取りをしていると、早くも追っ手がすぐ後ろへとやって来た。
「はっはっは、行き止まりみてぇじゃねーか。残念だったな。」
 三人は崖を背に、相手の方を向いた。どうやら、このまま戦う以外に方法はなさそうであった。
 鋼殻が三人の先頭に出、黄金蜘蛛は近くにたまたま落ちていた樹の棒を拾った。そして幻妙は、その場で念力を使えるよう構えた。
「お、結局はやるって事か? 残念だが、俺たちはもうお前らの相手をする気はなくなったんでな、さっさと終わらせてもらうぜ。」
「終わるのはどっちだかな。」
 鋼殻は相手の言葉に負けじと言い返す。しかし、敵は鋼殻の言葉を聞き薄笑いを浮かべた。
「お前ら以外終わらせようもねーよ。いくぜ、地動震の術【ちどうしんのじゅつ】!!」
「え!? ちょ、ちょっと待てっ・・・そんなの使ったらっ!!」
 三人は思わず叫んだ。
 『地動震の術』とは、大地を揺るがし巨大な岩盤を巻き上げ、それを敵に叩きつける荒技的な術法である。確かにその術法の直撃を受ければひとたまりもないが、それ以前にここは崖っぷちである。
「うっ・・・うわあああぁぁぁぁ―――――――――ッ!!!!!」
 三人の足元は術法による震動で崩れ、三人は谷底にまっ逆さまに落ちていった。
「はっはっは、ザマァ見ろ! 素直に金を出しときゃあ良かったんだよ!!」
 闇軍団の残党達の嘲笑は、すぐに三人の耳には届かなくなった。そして三人の耳には、谷底を流れる川の音だけが聞こえるようになる。


「ぐえっ!!」
 一番最初に地面との再会を果たしたのは鋼殻だった。
「どわあっ!!」
「ごはっ!?」
 続いて、間も無く黄金蜘蛛が鋼殻の上に着地した。
「・・・うわっ!! だっ、大丈夫か鋼殻―――!!」
 黄金蜘蛛は、自分の下に鋼殻が敷かれている事に気付き、慌てて飛び退いた。
「殺す気か―――!!」
 鋼殻は黄金蜘蛛の胸ぐらに掴みかかる。黄金蜘蛛はただ平謝りをした。
「・・・あ、あれ・・・?」
「ん? 何だよ黄金蜘蛛?」
 黄金蜘蛛は何かに気付いたように辺りを見回した。
「何なんだよ・・・一体どうしたんだ?」
「・・・幻妙・・・」
「・・・え? ・・・・・・・・・あ。」
 そう、鋼殻・黄金蜘蛛・幻妙と三人同時に落ちたはずなのに、何故か幻妙だけが落ちて来ないのだ。不思議に思い、二人は少しの間周囲を見回した後、ふと上を見上げてみた。
「ああぁっ!! 幻妙っ!!」
「何!? ・・・って、うわあっ!!」
 鋼殻が幻妙を見つけ、黄金蜘蛛もその方向を見た。なんと幻妙は、崖の途中から生えた木の根にひっかかっていたのだ。
「よ・・・よォ二人とも・・・。・・・助けてくれ・・・。」
 幻妙は、木の根にひっかかったまま二人の方へと手を振る。どうも腹部が圧迫されているらしく、その声は苦しそうだった。
「ど、どうすりゃいいんだ? 黄金蜘蛛!」
「よ・・・よし鋼殻、もう一度お前が下敷きに・・・」
「俺を殺す気かッ!! 今度はお前がなってみろよ!」
「無茶を言うな!!」
「何でもいいから助けてくれ〜〜〜。今にも折れそうなんだよ、こ」
 ・・・ペキッ。
 幻妙が「コレ」の「こ」まで言いかけたとき、木の根がイヤな音を立てた。
「ぎゃあああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ああっ!!」
「げ、幻妙っ!!」
 どぼ―――ん。
 鋼殻と黄金蜘蛛の対応が間にあわず、哀れ幻妙は川の中へと落ちてしまった。どうも木の根にひっかかっていたせいで、落下地点が鋼殻らとずれたらしい。
「あ〜〜〜〜〜っ」
 幻妙はそのまま川に流されていく。鋼殻と黄金蜘蛛は慌てて川に沿って走った。

「・・・熱血火炎放射!!」
 鋼殻が、独特の炎技で焚き木に火をつけた。幻妙を川から助ける時に二人まで濡れてしまったので、火を起こして体を温めるためだ。
「・・・死ぬかと思った・・・。」
 幻妙はびしょ濡れになった体を震わせながらつぶやいた。
「・・・あの状況、最初に地面を激突した鋼殻が生きている時点で不思議なきもするが・・・?」
 黄金蜘蛛はぼそりとそう言い鋼殻の方を見た。
「お前たちとは鍛え方が違うんだよ!」
「鍛えてどうこうなる高さじゃなかった気が・・・。」
「もうどうだっていいじゃねーか黄金蜘蛛! お前なんて俺が下にいたからこそ助かったんだろーがよ!」
「ま、まぁそうなんだが・・・。」
 三人は、それから黙って火に当たった。
「グオオオォォッ・・・ギャッスラ―――――ッ!!!」
 ふと、急に後ろから妖怪の雄叫びが聞こえた。三人がハッとし振り向くと、そこには一体の蟹入道【かににゅうどう】がいた。
「うわ、出た、蟹道楽!!」
「何を訳の分からん事を言ってるんだ!?」
 鋼殻の謎の発言に幻妙がツっ込んだ。
「・・・ふざけている場合か?」
 敵意むき出しの蟹入道と対峙している黄金蜘蛛が二人に言った。
「そ、そうだったな。とりあえず、今はコイツをどうにかしないとな・・・。」
 そう言って、幻妙と鋼殻も蟹入道の方へ向き直った。
「・・・・・・ところで・・・蟹入道って食えたっけ?」
 鋼殻が他の二人に質問した。ちなみに蟹入道は、外見はほとんどカニそのものである。
「バカ言え。あの堅い殻や猛毒があるのに、食える訳ないだろう!」
 幻妙が鋼殻を叱咤する。
「・・・ちぇッ。」
「・・・鋼殻、腹が減ってるのは分かるから・・・でも今はそれよりもコイツを倒す事の方が先決だからなー。」
 黄金蜘蛛が、残念そうに舌打ちをした鋼殻に言った。
「確か、以前乱飢龍【らんきりゅう】殿が言っていたことには、蟹入道に小手先の物理攻撃は無駄だということだったな。」
 乱飢龍とは十三人衆水魔隊の隊長で、作戦によく蟹入道も連れて行っていたのだ。その乱飢龍がかつて言った通り、蟹入道には術法以外はほとんど通じない。
「・・・つー事は、術法戦でいくしかないって事か。」
「そのようだな。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
 そこまで話がまとまった所で、三人の動きと会話は止まってしまった。
「・・・一応言っとくと・・・俺、術法使えないからな。」
 武闘隊は基本的に術法は使わない。隊長・隼天狗がそうであるように、副官であった鋼殻も術法は何一つ覚えてはいないのだ。
「俺は術法がない事はないが・・・中癒しの術【ちゅういやしのじゅつ】のみだ。」
 黄金蜘蛛は言った。「中癒しの術」はその名称から分かるように、回復用の術法だ。
「・・・幻妙、お前は確か、何かあったよな?」
 黄金蜘蛛と鋼殻は幻妙の方を見た。しかし・・・
「・・・俺は確かに小癒しの術【しょういやしのじゅつ】と他にあやかしの術もあるが・・・あやかしの術では相手に攻撃はできん。」
 小癒しの術は中癒しの術よりも簡易な回復用術法、あやかしの術は相手を操るだけの術法で、相手に痛手を与えるような効果は備わっていない。
「・・・理性の備わっていない妖怪を操れるのか・・・?」
「・・・無理な気がする・・・。」
 ―――三人に新たなる危機が訪れた。



武器が無く術法もない状態で、彼らはどう蟹入道と戦うのか?
そして何より、何故彼らはこんなにも災難に会わなければならないのか!?

次回、「危機」 運命とは時には残酷なものなり・・・

黄金蜘蛛「いつまで続くんだよ、コレ・・・」
・・・お前らが烈帝城に着くまで?


第二話へ 「副官たちのその後」へ戻る トップへ戻る 第四話へ