2004/08/11
運よく自分たちの武具を取り戻すことのできた三人。
だが、武具を盗んだと思われる者は、巨大な呪怪入道に追われていた!
天宮にしてきたことへの償いも兼ねて、三人はその人物を助けに向かう。
新SD戦国伝 機動武者大戦 後日談 〜副官たちのその後〜
<第六話 〜再会へ〜>
黄金蜘蛛・幻妙・鋼殻の三人は、巨大呪怪入道を追って走り続けていた。
「あっ、おい、見ろよ二人共ッ!」
走りながら鋼殻がそう言い、遠くを指差した。鋼殻の指差す方向には、木の隙間から町が見えていた。
「あそこは・・・もしかして亜茶の町【アーティーのまち】か!? そんな所に来ていたとは・・・。・・・しかし、マズイな。もしあの呪怪入道が町に出たりしたら・・・厄介なことになる。」
「確かに。さっさと追いついて、何とかしないとな。」
黄金蜘蛛と幻妙がそう言いあうと、三人はうなずいて先を急いだ。
「だ、だ、誰か助けてくれええぇぇっ!!!」
一人の男が、金剛爆進丸形態【こんごうばくしんまるけいたい】級の巨大な呪怪入道に追われて叫びながら走っていた。
「こ、こんなことになるなら余計なモン盗むんじゃなかったあぁぁ〜〜〜〜ッ!!!」
ガッ
男は夢中で走っていたせいか、道に転がっていた石に気付かず、それにつまづいて転倒した。それを呪怪入道は見逃さず、即座に背中の槌を男に向けて突き出した。
「ギャ――――死ぬ――――――!!!!!」
「鋭爪の舞ッ!!!」
槌が男に当たるよりも早く、鎧の背中から蜘蛛の足のような爪を出した黄金蜘蛛が、呪怪入道を斬りつけた。呪怪入道は痛みでひるみ、一旦男から離れた。
「何とか間に合ったか・・・」
男を見ながら黄金蜘蛛が言った。少し遅れて、幻妙を背負った鋼殻もこの場に到着した。
「はー、途中で幻妙がバテるとはなぁ〜、情けない。」
鋼殻はそう言いながら背中の幻妙を見た。が、幻妙はあまりバテているようには見えない。
「・・・ん? ・・・・・・幻妙、お前まさか・・・だました?」
今の幻妙の様子を見、鋼殻が聞いた。
「あぁ、このほうが早いだろうと思って・・・」
幻妙がそう言った瞬間、鋼殻は幻妙を地面に投げ捨てた。
「おい、遊んでる場合じゃないだろう。」
二人の様子にあきれながら、黄金蜘蛛が言った。
「・・・ところでお前、一体何で巨大な呪怪入道なんかに追われているんだ?」
「あ、あぁ・・・実は昨日の朝、道端で寝てる間抜けな三人組から武器や防具を盗んだんだ。それで今日、町で売って金にしようとこの道を歩いてたんだが、盗んだものがガチャガチャとうるさくて、それで寝ていた呪怪入道を起こしちまったらしい。」
黄金蜘蛛に聞かれると、男はそう答えた。
「・・・ふーん、“間抜け”な三人組から武具を盗んだ・・・・・・・・・へぇ。」
鋼殻が、元々細い目を更に細めた。
「いやぁ、ホントに無防備でスキだらけで・・・・・・ん?」
男は言いたいことを言ってから何となく三人を見、そしてハッとした。
「・・・あれ? アンタらのつけてるその武具って・・・・・・もしかして・・・・・・」
「奇遇だなー、実は俺ら、昨日武具盗まれたんだよ、この通り戻ってきたけど。誰のせいかは知らねーが、ここまで来るのに苦労したぜ。」
鋼殻がわざとらしく言うと、男の顔はみるみる真っ青になっていった。
「鋼殻、無駄話はそれぐらいにしろ。呪怪入道がこっちにらんでる。」
幻妙に言われると、鋼殻は男の方から呪怪入道の方へと向き直った。
「・・・うっわー、何かむっちゃ怒ってねぇか?」
「まぁ、元々怒っていた上にさっき鋭爪の舞くらわせたしなぁ・・・。」
「冷静に言ってる場合でもないだろう、さっさと倒そう。」
幻妙が言った後、黄金蜘蛛と鋼殻が呪怪入道の目の前、幻妙は盗賊男と共にその後ろに並んだ。彼らは戦うのに都合がいいよう前列と後列に分かれたが、幻妙はこの盗賊男を逃がさないためにいるようにも見える。
「よし、さっさとケリをつけるぞ! 黄金毒手【こがねどくしゅ】!!」
「よっしゃー! くらえっ、豪快円舞【ごうかいえんぶ】!!」
黄金蜘蛛は巨大呪怪入道に特攻し、すれ違いさまに背中から出した毒爪で斬りつけた。更に鋼殻は、黄金蜘蛛を巻き込まんばかりに斬血鎌を振り回し斬りつけた。呪怪入道は両方の攻撃を受け奇声をあげるが、負けじと反撃体制をとった。
「ギャッスラーシャキシャキィ!! 槌々素っ転ばし【ついついすっころばし】!!」
ゴッ ズザァ ぶしっ
巨大呪怪入道が背中の槌・破城槌【はじょうつい】を突き出すと、近くでまだ鎌を振り回していた鋼殻は派手に吹っ飛んだ。しかも攻撃が当たった瞬間に鎌が手から離れ、吹っ飛んで倒れた鋼殻の顔にその柄がぶつかった。
「ギャアアァァァ痛って――――!!!」
「・・・アホか。」
顔を押さえ転げ回る鋼殻を見ながら、幻妙がつぶやいた。
「少しは頭を使って戦え。・・・くらえ、念力・毒噴霧【どくふんむ】!」
「グオォッ!? ゲフゲフゲフ!!」
幻妙が妖蛇の杖を掲げると、あたりには毒々しい色の霧が発生し、巨大呪怪入道を包んでいった。その中で呪怪入道は毒の霧にむせ返った。
「よくやった、幻妙! ・・・おい鋼殻、いつまで転がってるつもりだ、お前も霧に巻き込まれるぞ!?」
黄金蜘蛛はそう言うと空気を大きく吸い込んでから息を止め、武器を手に毒霧の中へと入っていった。
「うぅ痛てててて・・・・・・ったく二人共人のこと馬鹿にしやがってェ・・・マジ痛ェんだぞコレ・・・・・・。」
鋼殻はようやく起き上がり、そして巨大呪怪入道の方を見た。
「・・・・・・てか、この毒霧の中、接近戦専門の俺にどう戦えって? ・・・あ、そうだ、数珠烈弾【じゅずれつだん】あるじゃん数珠烈弾!」
数珠烈弾とは、数珠を相手に投げつけるという、武闘家にしてはセコい技である。鋼殻は早速技用の数珠を探した。が――
「・・・あれ? 俺の数珠どこいった?」
いつも入れているところに数珠がない。鋼殻は不思議に思い、普段はしまわない場所を探したり、逆立ちしたり、一旦鎧をすべて脱ぎ捨てたりしてみた。しかし、どこを探しても数珠は出てこなかった。
「・・・・・・まさかあいつ、まだ俺の数珠だけは持ってンのか? 全く、迷惑な・・・・・・」
鋼殻はそうぼやきながら盗賊男の方を見た。対する盗賊男の方はと言うと、幻妙の近くで、「あの妖怪の次はきっと俺だ」とかつぶやきながら小刻みに震えていた。しかし鋼殻には、彼がつぶやいている言葉は聞こえていないようである。
「・・・何か見てて気の毒になるくらいに怯えてンなー。・・・・・・ま、数珠のこと聞くのは戦い終わってからでもいっか。」
鋼殻はそう言うと、何で数珠を探していたのかも忘れ、そのまま毒霧の中の呪怪入道へとむかっていった。
「オラァ化け物! この俺が今倒しゲホゲホゲホ」
「なぁにやってるんだ鋼殻のヤツは。」
霧の中で喋ってむせている鋼殻の声を聞き、幻妙はあきれた。
「・・・しかし、息を止めて入っていった黄金蜘蛛もそろそろ息切れするだろうし・・・そろそろ霧を晴らすか。」
幻妙は一人でそうつぶやくと杖を持って念じた。すると毒霧はみるみる晴れてゆき、傷だらけの呪怪入道と対峙する黄金蜘蛛、そしてまだ咳き込んでいる鋼殻が見えてきた。
「霧を晴らしたか・・・・・・丁度いい、幻妙、鋼殻、一気にケリをつけるぞ!」
黄金蜘蛛が言うと二人はうなずき、それぞれ武器を構えた。
「行けッ、隠し蛇!!」
幻妙の袖口から、服の中に隠れていた蛇が飛び出し巨大呪怪入道に噛み付いた。
「目茶苦茶連続拳!!」
蛇に驚いた呪怪入道に鋼殻は一気に接近し、その腹部に連続で思いっきり殴りかかった。
「とどめだ、毒爪の舞【どくづめのまい】!!」
鋼殻の攻撃が終わるか終わらないかのその瞬間、黄金蜘蛛は背中から毒爪を出して呪怪入道に飛びかかり、その体に毒を流し込みながらズタズタに斬り裂いた。
「ギエエエェェェェッ!!!!!」
三人の総攻撃を受けた巨大呪怪入道は悲鳴をあげ、ズゥン! と大きな音を立てて倒れた。そしてしばらくはピクピクと動いていたが、やがてその動きは完全に止まった。
「・・・・・・よしっ、勝利!!!」
鋼殻は呪怪入道が動かなくなったのを確認すると、そう言ってガッツポーズをとった。
「あーやれやれ、デカい標的ってのは面倒だったな。」
「よく言うな、毒噴霧を使うのと隠し蛇けしかけるぐらいしかしていないクセに。」
いかにも大仕事をして疲れたようなしぐさをする幻妙に向かって、黄金蜘蛛はあきれて言った。
「・・・さてと、あとはコイツか。」
黄金蜘蛛はそう言って、視線を幻妙から盗賊男の方へとずらした。黄金蜘蛛と目が合った瞬間、盗賊男の体は恐怖で硬直した。
「おい、お前・・・」
「ギャ―――――ごめんなさ――い!!」
黄金蜘蛛が話しかけると、急に盗賊男は絶叫した。
「さっき巨大妖怪に追っかけられた時に、盗んだものほとんど落としましたっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――っ!!! どうか許してー! 殺さないで―――!!」
あまりに男が取り乱しているので、黄金蜘蛛と幻妙は困り果てた。そこへ、鋼殻が無言で盗賊男に近づいた。そして、男の胸倉をつかんでその体を持ち上げた。
「おい、お前っ!」
「は、は、はい!?」
「俺の数珠落としてねェか!? 数珠以外でも、何か落とさずに持ってんだったら返せ!」
「わ、わ、わ、分かりましたあぁ!!」
盗賊男は、大慌てで荷物や服の中から盗んだものを探した。そして、彼の懐からは鋼殻の数珠が見つかった。
「こ、こ、これしかないですっ・・・・・・」
「おぉっ、まさしく俺の数珠だ!」
盗賊男が数珠を差し出すと、鋼殻は嬉しそうにそれを受け取った。
「他にはないな?」
黄金蜘蛛がそう言うと、男は黙ってうなずいた。
「そうか。・・・幻妙、鋼殻、他に手元に戻ってきていない物はないな?」
「あぁ。」
「さっきの数珠で最後だ。」
二人に確認を取ると、黄金蜘蛛はもう一度男を見た。
「じゃあもういい、行け。・・・・・・これに懲りたら、もうこんな事をするな。」
「は、はいっ!!!」
男は黄金蜘蛛に言われると、逃げるように去って行った。
「次にこんなことしたら熱血火炎放射で丸焼きにしてやるからなー!!」
走り去る盗賊男に向かってそう言った鋼殻は、黄金蜘蛛と幻妙に無言で殴られた。
「おい、見ろよ二人共! 烈帝城だ!」
丘の上から、鋼殻が遠くを指差した。そこには、悠然と立っている烈帝城が小さく見えた。
「・・・烈帝城だって言っても・・・・・・全っ然遠いじゃないか。」
はるか遠くの烈帝城を見てはしゃぐ鋼殻を見、幻妙はあきれた声を出した。
「何言ってんだよ幻妙、今までは烈帝城なんて陰も形も見えなかったんだぜ!? ここまで来りゃもうすぐだろ!」
鋼殻はそう言うと、満面の笑みを浮かべて再び烈帝城を見た。
「もうすぐって・・・・・・この距離を見ながら何とも前向きだと言うか・・・・・・」
黄金蜘蛛もまたあきれてそう言った。が――
「・・・でもまぁ、ここまでが色々あって長かったからな。」
「何もなければもうすぐだと言えなくもないか。」
黄金蜘蛛と幻妙はそう言うと、笑みをもらした。
「・・・さて、烈帝城も見えてきたんだ、先を急ごう。」
黄金蜘蛛がそう言うと、幻妙と鋼殻はうなずいた。
「時空が開いたと言う噂は聞いていないから、頭目たちはまだ城にいるだろうしな。」
「でも、急がないと隊長達だけ先に覇道国へ帰っちまうかも・・・」
鋼殻が言った瞬間、三人の間に一瞬沈黙が訪れた。
「・・・急ぐぞ!!」
「おう!!」
三人は、大急ぎで走り出した。
ごたごたの出来事から脱出して先を急ぐ黄金蜘蛛・幻妙・鋼殻の三人。
烈帝城には、彼らの上司が――同じ覇道国の者たちが待っているだろう。
・・・多分。