2009/12/28
しましま忘年会2009
「しましま忘年会 in 輝石の国―――!!!」
「お疲れさまでした――――ッ!!」
「あんな緊迫した状況放り出して忘年会?」
長灰の言葉に続き、全員がグラスを掲げる。その中でただ一人、牙辺螺が突っ込んだ。
「どうしたんですか隊長。」
そばにいた辰砂が尋ねる。
「どうしたもこうしたも! 天魔翼神編18話、敵らしき存在が出てきた直後で! 次回を待たずにコレか!?」
「いやーいつものことだよー。」
のそのそと翼雷が出てきた。
「オイラの時なんてひどいよ、ちらっと出てきてそのあと忘年会で、キャラ定まってなかったからね。」
「…嘘だろ?」
「いえ、残念ながら。」
双翼が補足した。さらに長曹が会話に入ってくる。
「良いではないか、牙辺螺。」
「しかし…」
「双翼殿たちが天宮へ帰ったら、我々の出番は当面ないぞ。」
「うっ!」
牙辺螺が固まった。
「でもせっかく会ったのに、さびしくなるわね。」
桜璃亜が口を開いた。いつの間にか全員で双翼・黒翼・白翼を取り囲む形になっている。
「次お会いできるとすれば、一体何年後になるでしょうね。」
「辰砂さん、それ…言ってる意味によっては洒落にならないような…」
黒翼が苦笑いする。
「ずっとるりたちと一緒にいようよー。」
「瑠璃姫様、そういうわけにもいきませんよ。お話の都合上。」
「確かにそうだけど桜璃亜サン何言ってんですか!?」
長灰が突っ込んだ。
「そもそも無事に帰れるのか?」
「マジやめてそれ怖いから!!」
逆零丸の言葉に三翼神が震えあがった。
「違うほうへの旅立ちならいつでもお手伝いしますよ。」
「いらん!!!」
爆迅丸の発言を双翼がばっさり切り捨てた。
「ところで…闘士はいないのか? 九竜守か明鈴讃託も…」
「そういや…18話ラスト5、6行ぐらいしか出てないウチの水波さえ代表一人が参加してるのに…」
「恐縮です!!」
牙辺螺に言われ、水波が縮こまった。
「あれ? 闘士なら来てるはず…」
桜璃亜が答えると、皆が辺りを見回した。すると、席の隅で一人下を向いて立っている闘士の姿が目に入る。
「どうしたんだ闘士くん、キミは話に入らないの?」
長灰が近寄ると、闘士はゆらりと顔をあげた。
「WRYYYYYYYYYYYYY!!!」
闘士が奇声をあげた。その頭には、憑蜈蚣ががっしりとしがみついている。
「ギャ――――――――!?」
一同、特に近くにいた長灰が悲鳴をあげた。
「下がれ!!」
周囲のヒトを押しのけ、牙辺螺が叫びながら一歩出た。
「清めの護符ッ!!」
闘士に向かって白く光る札が投げられる。それは憑蜈蚣に張り付くと、まばゆい光を放った。
「ギャエエェェェッ!!」
憑蜈蚣は悲鳴をあげながらちりと化した。
「おぉ、さすが術法部隊の隊長。」
「これくらいお安いご用です。」
牙辺螺は長曹に軽く頭を下げた。
「…俺ら本編でけっこう頑張ったのに…」
「それ言っちゃだめだよ…」
「我々だと確実に妖怪のみを倒すことはできないからなー…」
三翼神がぼそぼそと話した。そこへ辰砂が、ちりと化した憑蜈蚣を見て口を開く。
「あーダメじゃないですか隊長、参加者倒したらー。」
「アレ参加者!? 闘士取りつかれてたぞ!?」
「でも2007年は妖怪も四匹くらいいたらしいですよ。」
「マジか双翼!?」
「え、まぁ…でも比較的おとなしくしてたので…」
「ほら見ろ!!」
双翼に確認し、牙辺螺が言い返した。辰砂はそっぽを向いてごまかす。
「あれ? …乾杯は?」
と、ここで闘士が目を覚ました。
「もうしたよ。」
「マジで!?」
闘士がショックを受けた様子でがっくりとうなだれた。
「そんなに乾杯したかったのか…?」
「んじゃやりなおす? さっきは牙辺螺殿の突っ込みも入っちゃったし。」
「俺のせい!?」
「んじゃあたらめて、かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
牙辺螺が突っ込んだが、それを無視して乾杯が再度行われた。そして、各々好きな食べ物をつまみ出す。
「ちなみにこれどこから出てきたの?」
「あー、俺ら輝石の国メンバーで買ってきたよ。」
黒翼の問いに、早くも気を取り直した闘士が答えた。
「え!?」
「わ、我々全く聞いてなかったがッ…」
「いいんですよ、双翼さんたちは今回ご招待、ってことで。」
桜璃亜がほほ笑む。
「ところで、飲み放題ですけど何にしますか? 日本酒・焼酎・ビール・カクテル、その他色々ありますけど。」
「あぁ、輝石の国メンバーでもその辺のシステムは同じなんだな…」
過去二回の「しましま忘年会」を思い出しながら、双翼はつぶやいた。
「俺オレンジジュースおかわり!!」
「僕緑茶ー。あったかいの。」
「私は熱燗で。」
「はいはーい。あっ、長曹さん電話とってください!」
「うむ。」
長曹は近くの受話器を取って、桜璃亜に渡す。
「ついでにファジーネーブルも頼む。」
「…長曹さんファジーネーブル…?」
双翼が思わず聞き返した。ファジーネーブルは、ピーチリキュールとオレンジジュースのカクテルで、甘くジュースのような味をしている。
「あっ、じゃあ俺のも、ピーチグレープフルーツお願いします!」
長灰もついでにと言わんばかりに桜璃亜に言った。ピーチグレープフルーツは、ピーチリキュールとグレープフルーツジュースの以下同文。
「お二人とも好み似てるんですね…」
「えっ、そう?」
双翼の問いに、長曹・長灰がハモった。
「実は私、人が大勢集まるところに来るの初めてでして。」
爆迅丸が、梅酒ロックを片手にほほ笑んだ。
「あぁ、私もだな。」
それに逆零丸が答える。
「そこで、ちょっと確かめたいことがあるんですよ。」
「へー。何を?」
「お客様の中に、旅立ちたい方はおられませんかー?」
「やめろおぉぉ!!!」
立ち上がって叫んだ爆迅丸を、逆零丸は大慌てで引き倒した。
「お前はこんな席で何を言ってるんだあぁ!!」
「え、いえ、だって年の瀬ですよ?」
「だからこそやめろっつってんだろォが!」
「旅って、どこ連れてってくれるんです?」
水波が釣れた。逆零丸をけり飛ばし、爆迅丸は笑顔で応じる。
「極楽浄土です。」
「それほどの癒しの旅!?」
「場合によっては地獄かもしれませんが…」
「そこまでハードスケジュール!?」
「もちろん、事前にありとあらゆる希望は聞き入れますよ。」
「それでいて自分でプラン組めるの!? スゲー!!」
「だからやめろ、違うんだってば!!!」
逆零丸は再度爆迅丸を引き倒す。
「…逆零丸、あなたさっきから何のつもりです? 営業妨害ですよ?」
「何が営業だ! ただでさせ見逃せないのにこの場でッ…」
「キャラ崩壊起こしかけてまでやることですか?」
「やることだよッ!!」
逆零丸が槍を振り下ろした。爆迅丸はそれをひらりとかわす、が、驚いた水波は慌てて逃げ出した。
「あー、せっかくお客さんができたと思ったのに……いくらあなたでも、今回ばかりは許せませんよ…」
爆迅丸の目が光る。バサッとマントを広げると、その下には多くの武器が隠されていた。
「まさか宴会の席でこんなもの使うとは思いませんでしたが…『多様武装具百選』、一部持ってきていて正解でした。」
「ほう、やる気か?」
「えぇ、こんなに感情が激しく揺れるのは久々です…」
「奇遇だな、私もだ。」
二人が武器を構えて向き合う。二人の間の空気が緊張した。そして次の瞬間―――
ばっしゃあ―――
二人の頭に大量の水が降り注いだ。突然のことに、二人は武器を構えたまま硬直している。
「何やってんだアンタらは…」
いつの間にか、牙辺螺と瑠璃姫が二人のそばに立っていた。どうやら水は彼らの術法だったらしい。また、ほぼ全員がこちらに注目している。
「急に叫んだり戦い始めようとしたり…羽目を外すにもほどがある!!」
「も…申し訳ない…」
「あーあ逆零丸のせいで…」
ぼやいた爆迅丸の頭を、双翼がどこからか取り出したハリセンでひっぱたいた。
「うーん、さすが隊長、しっかりしてますね。」
「ほんと、俺ら副官じゃかなわねーよ。」
もさもさと枝豆を食べながら、辰砂・長灰が言った。
「……っていうか……」
牙辺螺が覚めた目で別の方向を見る。
「何でこの中で一番しっかりしてなきゃいけないヒトが一切関与してこないんですか、長曹さん!?」
「ん?」
怒鳴りつけられ、今気付いたといわんばかりに長曹が顔をあげた。その手には、しっかりとメニューが握られている。
「…どうしたんだ、そこの二人びしょぬれじゃないか。」
「気付いてなかったの!?」
全員が一斉に突っ込んだ。
「そんなに夢中でメニュー見てたんですか…!?」
「んーいや、飲み放題メニューは充実してるんだが、食べ物についてはいまいち…」
「いえ…焼き鳥さしみ鍋中華…その他もろもろかなりの量ですが?」
メニューを覗き込みながら、牙辺螺が呆れた声を出す。
「でもデザートがアイス・あんみつ・杏仁豆腐しかないし…」
「あっ、それ俺も思ってた。」
長灰が同調した。
「…いえ…アイスの味5種類くらいあるし…十分じゃ…?」
桜璃亜が言ったが、長曹・長灰は首を振る。
「…ホント甘党なんだな…」
「…ここまでとは…」
牙辺螺・辰砂がつぶやいた。
忘年会が始まって、1時間ほどが経過した。ちょうど良い具合に大人は酔いが回り始め、子供たちは腹が膨れ、話が盛り上がってきた。爆迅丸・逆零丸の件を除いてケンカが起こることはなく、和やかなムードが場を満たしていた。
しかし、突然黒く巨大な何かが壁をぶち破って飛び込んできた。一瞬にして室内に緊迫した空気が満たされる。しかしその乱入者は立ち止まることなく、すぐに反対側の壁をぶち破って出て行った。直後、真紅の衣をまとった男が宴会場に降り立つ。
「メリークリスマース!!」
「明鈴讃託!?」
そう、そこに立っていたのは明鈴讃託だった。それを見ると同時に、たった今駆け抜けた乱入者は十仲威号であると、皆が理解した。
「忘年会欠席じゃなかったのか…」
「はっはっは、遅れてすまない。クリスマスは過ぎてしまったが、せっかくの忘年会だ。大人も子供も、みんなに特別なプレゼントを持ってきたぞ!」
明鈴讃託はそう言って、肩に担いでいた大きな袋を床に下ろす。
「またずいぶん大層な荷物だな…」
「ふふふ、特別だと言っているだろう? まぁ待ちたまえ。その前にやらねばならんことがある。」
明鈴讃託はそういうと、袋から一つの小さな箱を取り出した。
「ほら翼雷くん。本編で渡しそびれたプレゼントだ。」
「お前はっ倒すぞ?」
翼雷が低い声で言いながら刺又を突き出した。しかし明鈴讃託が動じるはずもない。
「遠慮しなくていいぞ、キミが良い子であることは目を見るだけでわかる。」
「オイラを子供だと思っている時点で、お前に見る目などない。」
「はっはっはっはっは。」
「…………。」
場の空気が張り詰める。翼雷は武器を構えたまま、明鈴讃託はプレゼントを差し出したまま、互いに全く動こうとしない。
「よ…翼雷…」
恐る恐る双翼が声をかけた。翼雷はじろりと双翼を見た、が、すぐに視線をプレゼントに移す。
「……時に自分の主張を飲み込んででも場の空気を壊さないのが、大人の対応ってところ?」
いつもの軽い声に戻りながら、翼雷が言った。いまさら大人の対応も何もないのだが、少なくとも場の空気は多少ほぐれる。翼雷は刺又を引っ込め、明鈴讃託の手からプレゼントを奪い取った。
「開けてごらん?」
相変わらず自分のペースで語りかける明鈴讃託。無言で、翼雷は渋々と指示に従った。
『謎』
箱の中には、そんな明鈴讃託の一筆が入っていた。
「……お礼を言わなければ、悪い子認定で来年からは来ないよね?」
「いやいやわかっているぞ、大勢の前でお礼を言うのが恥ずかしいのだな!」
「……………。」
翼雷が再び武器を取り出しそうだったのを、双翼があわてて押さえた。
急に、ひやりとした空気が流れる。だが、それは翼雷と明鈴讃託の間とは別の所から生まれていた。二つあいた大きな穴から、ひやり冷たい空気とともに、雪がちらちらと舞いこんできている。
「ばかな、雪だと!?」
「この国で…!?」
輝石の国の面々がガタッと驚き立ち上がった。
「そういえばさっきまでは降ってる様子なかったねェ。」
「それどこじゃねーぞ!!」
白翼の言葉に、バッと闘士が振り返った。
「雪なんてッ…水波術法隊が術使って出したのしか見たことねェ…!」
「そもそも天宮より南方の海にあるこの島で、雪が降るなどほぼあり得ないことだ…!!」
「えっ?」
必然的に明鈴讃託に注目が集まる。
「ふむ。当日でなくとも、雪があると雰囲気はばっちりだな。」
「……!!」
まさか、この男が…?
一同そう思ったが、誰も口には出せなかった。
「さて、本題に戻ろう。」
明鈴讃託は再び袋をいじり出した。先程は仲から物を出していたが、今回は仲のモノから袋を取り外す、といった方が良いかもしれない。子供――ちょうど瑠璃姫の身長と同じくらいの高さの巨大な箱が姿を現した。
「なっ…何だこれ…!?」
「デカっ…」
「いや、驚くのは中を見てからにしてもらおう。そうだな…どうせなら子供の方がいい。闘士くん、黒翼くん、箱を持ってくれ。そして白翼くん、瑠璃姫、ふたを持ち上げて外すんだ。」
明鈴讃託に言われるまま、四人は箱を開けた。すると中から巨大なデコレーションケーキが姿を現す。「おおっ」と会場が一瞬わく。が――
「…こっち側つぶれてるけど?」
翼雷が冷めたような声で指摘した。確かに、ケーキのてっぺんが崩壊し、それが倒れこんだ側面のクリームもせっかくの装飾が乱れている。おそらくはここにやってくるまでに箱が傾いたのだろう。気まずい空気が流れる。
「ふっ…そうきたか。だが、しかし…」
誰もが反応に困って沈黙する中、明鈴讃託が口を開く。その手には、白く化粧され、それは大きな赤い果実が装飾された洋菓子があった。『それ』は先ほど十仲威号の運搬ミスにより、その形を失ったはずだった。
「こちらには…奥の手、があるのだよ。」
「馬鹿な…! ケーキはさっき潰れてしまったはずじゃっ…!?」
場がどよめく。ケーキが再生した、いや、違う。確かにケーキは闘士・黒翼の手元にまだ存在している。そう、それは先ほどのものと比較してもひけを取らない、『別のケーキ』なのだ…!
「も…『もうひとつの』ケーキ…だとっ?!」
「まさかっ……こうなることを予測して…別のケーキを用意していたというのか?!」
周囲のものが驚きを隠せず、ざわざわと声をあげ始める。ある者は驚愕し、ある者は嬉々とした視線を投げかける。しかしそれらはすべて、ケーキに敵意として向けられたわけではない。むしろそれを歓迎するものだった。
「ふふっ…ははは!! 私にかかればこの程度の事は予見していたさ!!! なぜならば私は子供に夢と希望を与える、『サンタ』…だからな。」
「おお…、うおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
誰から始めたわけでもなく、その場の者たちが一斉に手を打ち明鈴讃託に喝采の拍手を送る。その音は外へ、空へと響き、その夜空に舞う雪もまるで明鈴讃託を祝福するかのように穏やかに降り注ぐ。
そしてその雪の色を名に冠する子供が言った。
「じゃあ最初から潰れないようにすればいいのに、もったいない。」
吹雪いてきた。
※崩れたケーキは十仲威号がおいしく頂きました
【ちょっとあとがき】
3回目でいまさらながら、ストライプ→しましまということで、ストライプ内自作キャラで忘年会です。
今回はキャラが増えたため、翼神編十八話が終わった段階で輝石の国で出てきたメンバーのみとしました。
活飛・百合・漣月・死グリが出てきていませんが、こっちはまぁあとで別途…ふっふっふ(笑)
また今回このネタを作るにあたり、明鈴讃託作者である弟・烈神丸(アキ)がオチの文章を考えてくれました。
さすが、原作者はキャラの動かし方を心得ている…!
本人の許可の下周りに合わせるくらいの修正でほぼそのまま使わせてもらいました。
ちなみに「ふっ…そうきたか。だが、しかし…」のあたりから。
…ところで弟よ、すでに画力に圧倒的差をつけられたというのに、
お前が文章までうまくなったらこの姉はどうやってプライドを保てばいいんだい?
いや元々たいしたプライドもないからきっと何も変わらないけど