2003/12/05
武者○伝 場外戦闘(?)
〜新潟県 武者飛駆鳥〜
ここは天馬の国(現代日本)、新潟県内のある老夫婦のお宅。そしてこの日は十二月二十四日…クリスマスイブ。その中から、何やら楽しげな声が聞こえてきた。
「メリークリスマース!!」
武者飛駆鳥の声が室内に響いた。
「本日は俺・飛駆鳥主催のクリスマスパーティにおいでいただき、真に有難う御座いまーす!」
飛駆鳥はそう言いながら室内を見回した。そこには飛駆鳥をあわせて十四人の武者たちと、三人の人がいた。
「主催って言っても、お前はあんまり準備してないんじゃないのか?」
飛駆鳥の未来の父親・武者衛府弓銃壱が言った。
「確かにー。まだ子供のお前じゃあ、一人でこんなに豪華な料理や飾り付けが準備できっこないもんなー。」
そう言いながら頑駄無真駆参が笑った。
「あっ、ひっでー! せっかく招待してあげたのにー!!」
「まァ怒るな飛駆鳥。」
飛駆鳥を静止しながら、獣王頑駄無が言った。
「そうだぞ飛駆鳥。…だって事実だろ?」
「何だとー!?」
「やめてください兄上!!」
天地頑駄無がそう言った直後飛駆鳥は天地と喧嘩を始めそうになったが、弟・武者號斗丸に止められた。
「まァせっかくのクリスマスだ、喧嘩などよして楽しもうじゃないか。」
武者頑星刃に言われ、仕方なく飛駆鳥は振り上げた拳を下ろした。
「しかし、よくもまァこんな豪華な準備が出来ましたね。」
室内を見回しながら、雷鳴頑駄無が言った。
「へへへっ、そうだろう? これも全部じいちゃんとばあちゃんのおかげなんだっ!」
飛駆鳥はそう言いながら、部屋の中にいた老夫婦の方を見た。飛駆鳥はここ天馬の国で、一組の老夫婦の養子として暮らしているのだ。
「しかし、子供の特権だよなー…飛駆鳥以外の俺たちはみんな働いてるのに。」
烈破頑駄無がちょっと不満そうにそう漏らした。
「全くだ! 俺なんて毎日忙しいのに…」
「晴れた日はサーフィンばかりしているのに?」
「何を!? 漫画家アシスタントなめるなよ!!」
不知火頑駄無に言われ、仁王頑駄無は即座に反論した。
「あーそこそこ、喧嘩しない!」
口喧嘩が始まりそうな二人を見、荒鬼頑駄無が口を出した。
「…なァ烈破殿…」
大牙頑駄無超将軍が、烈破に小声で話し掛けた。
「ん? 大牙殿、何か?」
「…タイガースの私設応援団団長は仕事か?」
「え…」
烈破は、本気で返答に困った。
「皆さん、ケーキが焼けましたよ。」
大きなケーキを持ちながら、老婆か彼らに声をかけた。
「おぉお! 待ってました―――!!」
ケーキに真っ先に駆けつけたのはやはり飛駆鳥であった。
「おぉ、これは美味そうだな!」
天地はケーキを見、舌なめずりをした。(←どうやって?)
「それにこのデコレーションも、素晴らしいですね。」
雷鳴はケーキの豪華さに見とれた。
「じゃ、切るぞー!」
「ちょっと待った!」
號斗丸がケーキを切ろうとナイフを取ると、大牙の弟・爆流頑駄無がそれを止めた。
「…何か?」
「ケーキを切るならいい物がある、見よ!!」
爆流はそう言いながら、満面の笑みを浮かべ持ってきていた荷物から何かを取り出した。そこから出てきたのは、ナイフらしき物の付いた異形の機械であった。
「…何それ?」
「ケーキを完全に均等に切るための機械だ。これを使えばケーキは見事二十等分に!!」
「ここにいるのは十七人だが?」
「……」
頑星刃にはっきり言われ、爆流は沈黙した。
「ま、一人一個にして余ったケーキについては後で考えりゃいいだろ?」
「…ま、それもそうか。」
「じゃあ早速!!」
天地のフォローで頑星刃が納得すると、爆流は嬉しそうに機械を起動した。そしてケーキは見事に二十個に切り分けられた。
「はい、どうぞナツミさん。」
「ありがとう、號斗丸さん。」
號斗丸と一緒に招待されたナツミは、號斗丸からケーキを受け取った。
「でも、私も来てよかったのかしら? 飛駆鳥さんとは面識ないのに…」
「弟が世話になってるんだから、気にしなくていいよ♪」
ちょっと心配そうに言ったナツミに、飛駆鳥が言った。
「あっ、見ろよ! 雪が降り出したぜ!」
外を見ながら仁王が言った。
「おぉ、ホントだ!」
仁王の声を聞き、全員が窓の外を見た。
「…別に新潟では雪なんてしょっちゅう降るけど…」
「降らない所もあるんだから気にするな。」
当たり前だと言いたそうな飛駆鳥に対し、烈破が言った。
「クリスマスに雪って、やっぱりい…」
突如、一番はじの窓から外を見ていた弓銃壱が、何かを見つけたのか動きが止まった。
「? どうかしたのか?」
「…今、何か巨大なモノが町中を疾走して…いや、何でもない…気のせいだったと思うから…」
烈破が聞いたが、弓銃壱は自分の目が信じられなかったらしく返答を途中からはぐらかした。
「えー? 気になるぜ、一体何だったんだよ?」
天地が詳しく聞きたがったが、弓銃壱は答えなかった。
ピンポ――ン♪
皆が弓銃壱に注目していると、玄関チャイムがなった。
「ん? 誰だろう、こんな夜に…」
飛駆鳥はそうつぶやきながら玄関の戸をあけた。
「はーい、どちらさ…」
戸をあけた瞬間、飛駆鳥は固まった。
「飛駆鳥、誰だったー?」
飛駆鳥に続き、他の武者たちや老夫婦も玄関の方を見た、が、武者たちは全員がそこに立っていた者を見て飛駆鳥同様固まった。
「メリークリスマース♪」
そこに立っていた者の姿はと言うと、赤い帽子、白くてふさふさした髭、大きな白い袋、赤い鎧、トゲトゲしい肩、黒鋼の角飾り、モノアイ。
「ま、ま、ま…魔殺駆ううぅぅぅッ!?!?!?」
そう、そこにいたのは、七人の超将軍編時代の新生闇軍団軍団長、真紅の闇将軍魔殺駆であった。しかもそれだけではない、その後ろにはマフラーを巻いた呪術師遮光と、魔殺駆とおそろいの帽子とトナカイに似た角を付けた超呪動武者クラヤミまでもがいたのだ。
『む! お前たちは頑駄無軍団やその他のッ!!』
遮光はそう言いながらまやかしの錫杖を取り出した。
「おのれ新生闇軍団! 天宮や影舞乱夢・赤流火穏だけでは飽き足りずに天馬の国にまで来たかっ!!」
獣王はそう言いながら鎧を装備した。
「じいちゃん、ばあちゃん、下がっててくれ!! コイツらは敵だ!!」
「ナツミさんも下がってて!!」
飛駆鳥や號斗丸は三人の前に立ち、戦闘態勢をとった。他の武者たちもまた、鎧を装備し武器を取った。両者の間に緊張が走る――だが直後、魔殺駆がその間に割って入った。
「待て、お前たち!! 何もクリスマスの日に争う事なかろう!?」
魔殺駆の言葉を聞き、全員が沈黙した。そして全員が戦いを始めそうにないのを確認すると、魔殺駆は大きな袋から色々と物を取り出し、プレゼントとしてそこにいる武者や人たちに配り始めた。
「…遮光。」
『…何だ。』
ア然としながら號斗丸が呼ぶと、やはりア然とした遮光は答えた。
「……奴に何があった?」
『……そうだな、誤解を避ける為話しておこう…』
遮光は、號斗丸にこれまでのいきさつを話し始めた。
三日程前、天宮にある新生闇軍団の本拠地で遮光たちは呪動武者の量産作業の現場にいた。現場の指揮をしているのは参謀役である遮光で、魔殺駆はその作業の過程を見に来ていたのだ。
「作業は順調なようだな、遮光。」
『はい、魔殺駆様。この調子なら飛駆鳥達がたどり着く頃には奴らを容易に蹴散らせるほどの物がかなり出来上がるでしょう。』
「ふふふ、そうか。」
二人がそんな事を話しているその時、異変は起こった。
ズガアァンッ!!
突如本拠地内に爆音が響いた。
『何事だ!?』
遮光が急いで爆音のした方に行ってみると、そこには二、三人の部下たちが倒れていた。
「何をしているバカ者!!」
「す、すみません!!」
魔殺駆が怒鳴ると、部下たちは大慌てで謝った。
「ど、どうも呪動武者に込める闇魔力の量を間違えたらしく…」
ズガアァンッ!!
部下が事情を説明したその時、再び爆発が起こった。しかもその時の衝撃で、何故か魔殺駆や遮光の近くに空間の歪みが出来たのだ。
「な、何ッ!?」
『どういう事だ!?』
魔殺駆と遮光は何故こうなったのか理解する暇さえなく、その空間の歪みに引きずり込まれていった、しかも、たまたま近くに安置されていた未起動のクラヤミまでも。彼らを引きずり込んだ後、その空間の歪みは消えてしまった。
実はその爆発は偶然にも、堕悪魔刃頑駄無が「超時空転移装置」の力で飛駆鳥達を是断の門に呼び寄せた時間と一致していた。そしてその事がこの場に時空の歪みを作り出し、彼ら三人(二人と一体)を天馬の国まで飛ばしてしまったのだ。
「…遮光、それだけじゃああの魔殺駆の変わりようは全く説明されていないんだが…」
號斗丸はそう言いながら、荒鬼にしいたけを渡そうとして拒否されている魔殺駆を見た。
『…当然、この世界に来た後今日まで、何もなかった訳ではない。』
遮光はそう言い、話を続けた。
雪降る天馬の国のとある町…空間の歪みから放り出され気を失っていた魔殺駆・遮光・クラヤミはようやく目を覚ました。
『うぅ…一体今のは何だったんだ…? 魔殺駆様、大丈夫ですか?』
遮光はぶつけた体をさすりながら近くにいる魔殺駆の方を見た。
「…お前は誰だ?」
『は? 何を言います魔殺駆様、私は遮光ですが…』
遮光は魔殺駆に聞かれ、あっけに取られながら答えた。
「そうか、遮光か…それに俺は魔殺駆というんだな。ところで遮光よ、俺は何者だ?」
『へ?』
――まさか魔殺駆…先程の衝撃で“ぷろぐらむ”が吹っ飛んだのか!?――
魔殺駆は実は、過去に遮光…正しくは遮光の以前の姿である闇帝王が作った死霊武者なのだ。魔殺駆の行動はその“ぷろぐらむ”に基づく物であり、それを失った魔殺駆は自分が何者なのか分からなくなっていたのだ。
『…余計な手間をかけさせてくれる! 仕方がない、とりあえずは自分が何者なのかを“ぷろぐらむ”し直…』
『ギャッスラー!!』
『うわあぁッ!?』
遮光は自分の背後から聞こえた雄叫びに驚き振り向いた。放り出された時の衝撃で、クラヤミがこの場で起動していたのだ。
『何だクラヤミか…おどかすな、全く…』
遮光はクラヤミを静止させてから魔殺駆の方へと向き直った、と、そこには一人の人間の少年が立っていた。
『ん? 何だこの生き物は…』
人間と言う存在を知らない遮光は、その少年にむかって言った。だが少年はそんな事を気にも止めず、魔殺駆の方をじっと見た。
「…ねェ、もしかしてそこの赤いヒト、武者のサンタさん?」
『…惨多?(←誤字) 何を言ってるんだこの生き物は…』
遮光はそうつぶやきながら少年を無視しようとしたが、魔殺駆はその少年に向かって話しかけた。
「そこのお前、サンタとは何だ? 俺は魔殺駆と言うらしいのだが、自分が何者なのか分からないのだ。」
「そうなの? サンタってのはね、三日後のクリスマスの日によい子にプレゼントを配ってくれる人の事だよ。赤い服を着て、髭を生やして、トナカイの引くそりに乗ってるんだ!」
子供の話を聞くと、魔殺駆は自分の姿を見た。
「…フム、赤い…。」
真紅の闇将軍と言われるだけの事もある、確かに魔殺駆の頭や胸鎧は赤い。
「…だが髭はないな…」
『当たり前だ! そんな年老いた将軍など作るとでも思ったか!?』
「最近そったんじゃないの?」
「あ、なるほど。」
魔殺駆は遮光の言う事よりもこの子供の言う事に耳を傾け、勝手に納得した。
「ねェところでそっちの線目のヒト。」
『せ、線ッ…』
遮光は子供の呼び方に顔を引きつらせた。
「この大きいのは、武者世界のトナカイ?」
子供はそう言いながらクラヤミを指差した。トナカイな訳は無いのだが、トナカイという物を知らない遮光は返答に困った。
『…少なくともトナカイなどとは呼んだ事は無いが…』
「そうか、これがトナカイなら納得がいく!!」
『!?』
遮光が子供に返事をしたのと同時に、魔殺駆がそう言いながら手を打った。
「分かったぞ遮光、俺の正体が!! 俺はサンタだったのだな!!」
『んな訳あるかあぁッ!!!』
遮光は全力でそれを否定したが、完全に思い込んでしまった魔殺駆はこれ以上聞く耳を持たなかった。
「…と言う事は遮光、お前は俺の助手だな!」
『いやだから違…』
「いやいやいや、言わなくても分かっている。さぁいくぞ遮光、トナカイ!」
『それはトナカイではなく超呪動武者クラヤミだ!』
「そうか、クラヤミという名のトナカイか! とにかく二人共、三日後のクリスマスに向け、よい子の為のプレゼントを用意するのだ!!」
魔殺駆は遮光の腕を引っ張り、クラヤミの上に乗って子供の前から走り去っていった。
「頑張ってねサンタさーん!」
子供はそう言って、猛スピードで走り去る魔殺駆(走ってるのはクラヤミ)らに手を振った。
『…で、三日後の今日…路上の大道芸で金を集めた魔殺駆はこの国…日本中の武者へのプレゼントを買いあさり、日本中を駆けずり回っていると言う訳だ。…しかもよりによってこの私を巻き込んでな…。』
遮光は話し終えると、深い深い溜息をついた。
「…嫌そうな顔しつつもクリスマス仕様のマフラーを…」
『寒いんだよ!!!』
號斗丸に指を差されて言われた遮光は真面目に怒って言った。
「號斗丸!」
突如魔殺駆が、號斗丸に話し掛けてきた。號斗丸が振り向くと、魔殺駆は笑顔で號斗丸にプレゼントを手渡した。
「…俺、大人…」
「気にするな!」
「…どうも。」
號斗丸は最初受け取るのをやめようかと思ったが、魔殺駆が執拗に渡そうとするので、仕方がなく受け取った。
「さてと、この家は全員に渡したな!」
魔殺駆は號斗丸がプレゼントを受け取ったのを見ると、満足そうに言った。見ると、プレゼントをもらっているのは大人も子供も関係なくこの場にいる者全員であった。当然、飛駆鳥の世話になっている老夫婦までにも。
「…魔殺駆、お前何か間違って…いや、根本的に間違ってる…」
號斗丸は小声でそうつぶやいたが、意外にも自分以外の人はほとんどが喜んでいた為、これ以上は何も言わない事にした。
「魔殺駆、ありがとなー♪」
真駆参は、目の前にいるのが本来の敵である事を忘れて言った。
「はっはっは、お前たちの喜ぶ顔が見れて何よりだ!」
魔殺駆はそう言って笑うと、玄関に向かった。
「さぁ遮光、次の目的地へ行くぞ!! 次の目的地は岡山県だ!!」
魔殺駆はそう言うと、遮光を強引に引っ張って表へ連れ出した。
「あっ、ちょっと待てよ魔殺駆!」
飛駆鳥はふと、思い出したように魔殺駆を呼び止めた。
「プレゼントのお礼にさ、三人でこのケーキ食べてくれよ!」
飛駆鳥は、そう言って魔殺駆に先程のケーキの残り三切れを渡した。
「おぉ、ありがたい! では、さらばだ!!」
魔殺駆はケーキを受け取るとクラヤミの上に乗り、猛スピードで走り去った。
「魔殺駆が来たからどうなるかと思ったが…平和だったな。」
魔殺駆からもらったプレゼントの箱を開けながら、弓銃壱が言った。
「そうだな。…しかし、まさかあいつからプレゼントをもらう事になるとは……って、何でかまぼこ…?」
そう言った獣王は、プレゼントの中身を見て首をかしげた。
「さっき岡山県って言ってたっけ? つーと、剣聖頑駄無のいる所だよな?」
魔殺駆の言った事を思い出しながら、大牙が言った。
「…岡山って……ここから遠くなかったっけ?」
不知火は、そう言いながら首をかしげた。現在位置は中部地方の新潟県、だが岡山県はずっと南・中国地方にあるのだ。
「……地図、きちんと見てンのかな……?」
「…さぁ…」
クリスマスって事で、イラストとセットでかきました。
…正直な所、思うように話がまとまらなかった…(汗)