2003/06/06


SD戦国昔話 〜桃太郎編〜



 昔々あるところに、羽流鋭【バルス】おじいさんと翔妃【ショウヒ】おばあさんが住んでおりました。
 羽流鋭おじいさんは山へ猛者一族狩りに、翔妃おばあさんは川へ刃流刃浪【ヴァルヴァロ】獲りに行きました。
「…何かがおかしい…」
 二人はそうつぶやきながら出かけて行きました。

 翔妃おばさんが川で刃流刃浪と交戦していると、川の上流からどんぶらこ、どんぶらこと赤い卵が流れてきました。しかもうれしいコードつき♪
「おや、これはこれは不味そうな卵だこと。…でも、売れば金ぐらいにはなりそうね。」
 翔妃おばあさんはそう言いながら卵を拾おうとしました。が――
「おっと、この卵はこの俺がもらったァ!!」
 何と、交戦中であった刃流刃浪が卵をかっさらい、猛スピードで泳ぎ去ろうとしたのです。翔妃おばあさんは当然、全力で刃流刃浪の後を追いました。
「待たんかゴラ――――!! それはわらわの卵じゃあ―――!」
 背中の羽を広げ、翔妃おばあさんは悪鬼のような形相で飛びました。そして過酷なレースが始まって数十分、幸い翔妃おばあさんは刃流刃浪に追いつき、卵を奪い返しました。そして、翔妃おばあさんはついでに強烈な一撃を食らわせ、哀れ刃流刃浪は川底へと沈めらてしまいました。
「さて、家に帰ってじいさんとこれをどこで売るか相談するかね。」
 そこそこ満足そうな表情で、翔妃おばあさんは卵を抱え帰っていきました。

「ばあさん、今帰ったぞー。」
 翔妃おばあさんが帰って少しの後、羽流鋭おじいさんが猛者一族から奪い取った大量のなまくら刀を持って帰ってきました。
「おや、今日はなまくら刀だけかい。シケておるのう。」
「いやー、今日は頭目の飛銀【ビギナ】とその側近の射鋭【イルス】がおらんかったのでなァ。」
 羽流鋭おじいさんは翔妃おばあさんの毒舌をものともせず笑いました。
「ところでばあさん、その部屋の中で跳ね回っている赤い物体は何だ?」
 羽流鋭おじいさんはそう言いながら、翔妃おばあさんの拾ってきた例の卵を指差しました。
「あァ、これは川で拾ったのじゃ。いくらくらいで売れるかのう?」
 翔妃おばあさんはそう言いながら例の卵を押さえつけました。卵は何とか翔妃おばあさんの手から逃げようと必死にもがいているようです。
「うーむ、卵にひびが入っている上中からコードまで出ておるからな、売るより今食ってしまう方が得策だろう。」
「そうじゃな。」
 妙に落ち着いている羽流鋭おじいさんの言葉に同意した翔妃おばあさんは、すぐさま卵を燃え盛る焚き火の中に放り込みました。直後、卵はぶるぶると震えだし、何とパキンと割れてしまったのです。
「ヴァッキ――――!!!」
 そう言いながら出てきたのは、なんとも生意気そうな変な小僧でした。
「な、何ッ?! これが中身か!?」
 羽流鋭おじいさんは中身を見て仰天しました。
「明らかに不味そうじゃのう。」
 食う気満々だった翔妃おばあさんは、両手にナイフとフォークを持ったままがっかりしました。
「おいおい何だよ不味そうって! おいらは食いモンじゃねーやい!」
 そうやって生まれたての小僧は口答えしました。
「うーん…卵から生まれたが…これは鳥か? 恐竜か?」
 羽流鋭おじいさんはちょっと期待の目でそれにといましたが、それはどう見てもヒトでした。
「チッ、面倒だが育てるしかなさそうじゃな。」
 仕方なく羽流鋭おじいさんと翔妃おばあさんはこの小僧を育てる決心をしたのですが、彼らはまず名前でもめました。
「卵から生まれたし、『たまごろう』でいいじゃろ。」
「嫌だっ!!!」
 翔妃おばあさんのナイスアイディアを、小僧は全力で拒否しました。
「じゃあ、頭っからコードが出てるから『コンセント太郎』」
「ふざけんなっ!!」
 羽流鋭おじいさんのいい加減な案もやはり拒否。仕方なく、生まれた瞬間のセリフから取って『バッキー』と名付けられました。
「『ヴァッキー』のほうがいいんじゃないのか?」
「無駄に言いにくくしなくてよかろう。」

 ちんちくりんだったバッキーは、羽流鋭おじいさんと翔妃おばあさんに立派な悪の道を教わってすくすく育ち、あっという間に破牙丸【バキマル】になりました。
 ある日、バッキー改め破牙丸は言いました。
「じいさん、ばあさん! 俺ちょっくら鬼ヶ島行って鬼倒してくるわ!」
 羽流鋭おじいさんと翔妃おばあさんは首をかしげました。バッキーを悪として育てたのに、こんな事を言われれば当然です。しかし、二人は知りませんでした。実は破牙丸は鬼をカツアゲしお宝を巻き上げる気だったのです。
 とりあえず二人は、破牙丸がいると食費がかさむので旅立ちを許可しました。
「破牙丸、せんべつがわりにこれをやろう。」
 羽流鋭おじいさんは先程まで食べていたかしわ餅の残りを差し出しました。しかし食いかけは嫌だと拒否られたので、仕方なく翔妃おばあさんにキビ団子をこしらえてもらって渡しました。
「じゃー行ってくるぜ!」
 こうして破牙丸は鬼退治の旅に出かけました。

 破牙丸が道を歩いていると、前から獣破【ジュウハ】犬と剛覇【ゴウハ】猿と隼【ハヤブサ】雉がやってきました。
「おーい、そこの犬・猿・雉ー! 俺と一緒に鬼たい」
「拙者は白虎丸――虎だ! イヌなどではないっ!!!」
「俺がサルたぁどういう意味だ―――!!!」
「名前に隼付いてんだからキジ呼ばわりするな――!!」
 三匹は突如激高し破牙丸を袋叩きにした後去っていきました。
「…俺…今何か悪い事したっけ…?」
 破牙丸は近くにあった木の棒を杖代わりに再び歩き出しました。

 やがて前から九尾犬【バウンドドック】が姿を現しました。
「…尻尾が妙に多いけど…犬だよな。おーい、そこの犬ー!!」
 破牙丸は今度こそ犬であることを確認してから話し掛けました。
「俺と一緒に鬼退治しないか?」
「断る」
 九尾犬は即答でした。
「俺は大蛇飛駆塞虫【オロチビグザム】様にしか従わん。」
 それを聞くと破牙丸はすぐさま大蛇飛駆塞虫を探し出し、九尾犬の目の前でボコボコにしてしまいました。
 九尾犬は自分の主がやられるのを目の当たりにし、しばしア然としていましたが、やがてキビ団子をひとつもらうのを条件に同行してくれました。

 またしばらく歩いていると、今度は武者ザル(武者丸【ムシャマル】)がやってきました。その妙な格好に破牙丸は驚きましたが、とりあえず猿っぽいので話し掛けることにしました。
「おーい、そこの猿ー!」
「何や?」
 武者ザルは割と友好的でした。そこで破牙丸は、さっそく鬼退治の話を持ち出しました。
「うーん…やってもええけど、報酬がキビ団子っちゅうのはなー…」
 武者ザルは、どうやらキビ団子があまり好きではないようです。
「そや! たこ焼き百人前で手ェ打ったるわ! どや?」
 破牙丸はこの条件にかなり困りましたが、後で翔妃おばあさんに作らせる事にしてOKを出しました。
 あ、ちなみに武者ザルがもらうはずだったキビ団子は、代わりに九尾犬が食べました。

 もう一匹ぐらいお供がほしい破牙丸は森に入り、何かいないかと探しました。
 破牙丸が木を見上げると、そこには修業に疲れて一休み中の剣舞風荒【ケンプファー】がいました。話かけようかどうか考えていると、逆に向こうが気付いて木から降りてきてくれました。
「何か用か? 先程からヒトの事をじろじろと見て…」
「あぁ、いや、木の上に人影が見えたから誰かなーと。」
 破牙丸はこの人物が何者か分からなかったので、とりあえずは本題を伏せてそう言いました。
「私か? 私は武者忍剣舞風荒…人呼んでカラス天狗の剣舞風荒だ。」
 剣舞風荒の言葉を聞き、破牙丸はある事を考えました。
「…カラス天狗の剣舞風荒か…キジの代わりになるかな。」
「え?」
 剣舞風荒は今の発言にかなり戸惑いました。ですが破牙丸に問いかけようとした次の瞬間、突如破牙丸・九尾犬・武者ザルに取り囲まれ、キジの代役を強要されました。
「いざっ、鬼ヶ島へっ!!」
「…何で私がキジ…」
 不満大有りの剣舞風荒を引きずりながら、一行は海の方へと向かいました。

 その頃鬼ヶ島では、破牙丸の動きを知った鬼たちが緊急会議を開いていました。
「どうも破牙丸というものが、我らを退治するつもりらしい。…どうする?」
 青鬼荒鬼【コウキ】が、他の鬼たちに問い掛けました。
「その破牙丸さんてヒトは悪いヒトなんですかぁ?」
「何でも、羽流鋭のじーさんと翔妃のばーさんが育てたそうだ。悪の可能性は十分にある。」
 小鬼若神丸【ワカマル】の問いに対し、隣にいた鉄機鬼(!?)爆進丸【バクシンマル】が答えました。
「とにかく彼の目的を確認し、いざとなったら戦うしかないだろう。」
 赤鬼大旋鬼【ダイセンキ】がそう言うと、他の鬼たちはその意見にうなずきました。
「…ところで…」
 先程まで黙っていた大鬼撃鱗将【ゲキリンショウ】が口を開きました。
「何で俺は鬼なんだ? 名前も姿も通り名も、鬼とは全く関係ないぞ?」
「“鬼”師範だからだろ。」
 鉄機鬼爆進丸が答えた瞬間、鬼ヶ島に雷が落ち、大鬼撃鱗将は怒り狂って暴れました。やっぱりこのヒトは、鬼みたいです。

 所変わって海岸、破牙丸は船着場に停まっている船を物色していました。
「なーみんな、どの船に乗りたい?」
「どの船って…これらは他人の物だろう?」
 マジメな剣舞風荒キジは破牙丸の問いに対しそう答えましたが、破牙丸は「これに決めた!」といって近くの小船に乗りました。
「四人で漕げば何とかなりそうだな。よーしみんな乗れー!」
 どうやら破牙丸は船を奪っていく気のようです。戸惑う剣舞風荒キジをよそに、九尾犬と武者ザルも船に乗り込みました。そして剣舞風荒キジも、三人から「早く乗れ」との強い視線を注がれたので、あきらめて船に乗り込みました。

 鬼ヶ島に着くと、既に五人の鬼たちが武装して待ち構えていました。こちらの人数は四人、ちょっと不利ですね。でも、それで引き下がる破牙丸ではありません。
「やいテメーら! 人々から奪ったお宝を渡しなっ! 俺たち四人が有効利用してやるぜッ!!」
 破牙丸は五人にむかってそう言いました。ですが、その言葉は剣舞風荒キジを驚かせました。
「お、おい! 鬼退治が目的じゃなかったのか?! それじゃあまるで我々は強盗ではないか!!」
「えー? 宝さえ手に入りゃどうだっていいだろー?」
 今の破牙丸の言葉に九尾犬と武者ザルも同意したので、剣舞風荒キジはがっくりと肩を落としました。
「さぁ、宝を渡せ!」
 破牙丸は鬼たちに再度そう言いましたが、黙っていた鬼たちの内大鬼撃鱗将が口を開きました。
「黙れッ! 我らが襲うのは盗賊のみ! それに宝は貧しい人々に譲ってしまったのでもう一つもないッ!!」
 大鬼撃鱗将の声はあまりに大きかったので、周囲の空気がびりびりと震えました。まァそれはともかく、なんと鬼たちは義賊だったのです。こんな鬼、絶対に他にはいません!!
「宝がないだと!?」
 せっかく鬼からカツアゲをしようと思っていた破牙丸はショックを受けました。これでは遠出してきた意味がありません。仕方なく、この場はウサ晴らしだけをする事にしました。
「それが本当かどうか、お前らを倒してから島中を確かめてやるッ! 行くぜ野郎どもッ!」
 四人は破牙丸の合図とともに五人の鬼に飛びかかりました。あ、剣舞風荒キジはもうヤケクソです。しかし――
「撃爆星【ゲキバスター】!!」
「鬼岩一閃斬【きがんいっせんざん】!!」
「突撃大回転旋風弾【とつげきだいかいてんせんぷうだん】!!」
「迫撃貫通弾【はくげきかんつうだん】!!」
「災鬼動【サイキドウ】!!」
「ぎょわ――――ッ!!」
 さすが鬼、五人はとても強かったのです。破牙丸たちは五人の総攻撃によってあっという間に負けてしまい、その後大鬼撃鱗将の手によって羽流鋭おじさんと翔妃おばあさんの元にまとめて送られました。
 (鬼達が悪い奴ではなかったので)めでたしめでたし。



登場キャラクター紹介『』内は今回の役割り

●羽流鋭『おじいさん』
 伝説の大将軍編に登場、新生闇軍団空魔忍軍の軍団長。
●翔妃『おばあさん』
 伝説の大将軍編に登場、新世闇軍団空魔忍軍の女軍団員…つまり羽流鋭の部下。
●刃流刃浪『川の生き物』
 伝説の大将軍編に登場、新生闇軍団妖魔忍軍の軍団長…つまり羽流鋭とは同格。
●飛銀『猛者一族頭領』
 地上最強編に登場、猛者一族の頭領。この話と現実で、役割は変わっていない。
●射鋭『猛者飛銀側近』
 地上最強編に登場、猛者一族の頭領・飛銀の側近。この話と現実で、役割は変わっていない。
●バッキー『桃太郎(幼少時)』
 武者○伝3に登場、主人公。
●破牙丸『桃太郎(青年時)』
 バッキーが変幻(変形?)した姿。本来は成長してこの姿になるわけではない。
●獣破『犬1』
 武神輝羅鋼に登場、武零斗忍軍の一員にして大将軍のお庭番。白虎丸形態に変幻できるが、その姿はあくまで虎で、犬などではない。
●剛覇『猿1』
 天星七人衆に登場、山の天星。主人公・零壱【ゼロワン】の幼なじみである。
●隼(隼頑駄無)『雉1』
 天下統一編に登場、四獣王の一人。名前の通り、隼をかたどった鎧を着ている。
●九尾犬『犬2』
 地上最強編に登場、大蛇飛駆塞虫の部下。
●大蛇飛駆塞虫『九尾犬の親分』
 地上最強編に登場、天宮を荒らした化け物。和魂を狙っていた。
●武者ザル(武者丸)『猿2』
 武者○伝の主人公・武者丸が、鎧が手元になかった時に猿の着ぐるみを来て無理矢理パワーアップ(?)した状態。
●剣舞風荒『雉(?)2』
 風林火山編に登場、敵軍――闇軍団・頭領若殺駆頭の文武の師範。『カラス天狗の剣舞風荒』の呼び名は、単行本から。
●荒鬼『青鬼』
 七人の超将軍編に登場、閃光結晶【ビームクリスタル】に選ばれた七人の超将軍のリーダー格。鬼役の理由は通称の『正義の鬼将軍』から。
●若神丸『小鬼』
 武者○伝2の主人公、次期大将軍。鬼役の理由は装備品『赤鬼の鎧』から。
●爆進丸『鉄機鬼』
 武神輝羅鋼第〇話に登場、鉄機武者の試作零号機。鬼役の理由は後の通り名『鋼の赤鬼』から。
●大旋鬼『赤鬼』
 武神輝羅鋼に登場、武威凰大将軍直属特例・超将軍。鬼役の理由は名前に付く『鬼』の字から。
●撃鱗将『大鬼』
 武者○伝2に登場、頑駄無流師範。鬼役の理由は鬼師範であることと、覇利丸に『オニ』と呼ばれていた事から。



よそのHPで、ゲームのキャラクターなどを使った昔話がけっこうあったので私も挑戦。
配役考えているうちに、桃太郎の方が悪になりました。(蹴)


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