烈帝城 キノコ論争



 <七人の超将軍編が終わって少しした時の話>

 覇道武者魔殺駆と闇魔神吏偶遮光を倒し、天の島の落下を阻止した頑駄無軍団。戦いの傷跡もだいぶなくなり、この日は大将軍から副将軍・超将軍までそろっての食事会が開かれた。(当事「食事会」と呼ぶのかどうかは置いといて。)

天「おお―――っ! さっすが烈帝城の食事、いいモンそろってんな―!」
 卓上に並べられた食事を見、天地が声を上げた。
雷「天地殿っ! 大将軍様の前ですよ、もう少し口をつつしみなさい!」
 天地の方をキッとにらみ、雷鳴が言う。
荒「まぁまぁ雷鳴…そうカリカリするなって…」
雷「しかしですねぇっ…」
 荒鬼が間に入るが、雷鳴はどうしても礼儀知らずな感じの天地の態度が許せないようである。
大「良い、雷鳴。今日はせっかく皆で集まったのだ。細かい礼儀はなしとしようではないか。」
 天地とにらみ合ったままの雷鳴に、新世大将軍が言った。
雷「…大将軍様がそう言うなら…」
 仕方ない、といった感じで雷鳴は天地の方から正面へ向き直った。
剣「ところで、これで大体全員か?」
 剣聖が部屋全体を見回して人数を確認すると、二つほど席が空いているのに気付いた。
剣「ん? 後二人ほど足りないようだが…?」
舞「あ、そういえば、じい(=轟天)と魔星殿は少し遅れて来るって言ってたよ。」
 剣聖の疑問に、思い出したように舞威丸が答えた。
大「そうか。では、二人より一足先に食べ始めるとしようか。」
 大将軍がそう言ったので、食事会は始まった。

天「コレうめぇなー! …お、こっちもよさそうだぜ!」
 天地が雷鳴の横で、あちこちの料理に手をつけている。
雷「天地殿っ! もう少し行儀よく食べれないのですかっ!?」
 天地の粗暴さに呆れて、雷鳴が文句を言った。
天「まぁ固い事言うなや雷鳴! お前もコレどうだ?」
 天地は雷鳴の言うことはあまり気にせず、今取った料理を雷鳴の方に差し出した。
雷「自分の分は自分で取りますよ。」
天「連れねぇなぁ〜。」

千「そういや爆流、二人の兄は元気か?」
 爆流の横にいた千力が、大牙と飛天について聞いた。
爆「あぁ、二人とも相変わらず元気だぜ。千力、お前の烈堂馬虎は今どこに?」
千「さすがに城内には入れられないからな、外で武志や野武志が面倒を見てくれてる。」
 そう言って、千力は外の方を首で示した。
爆「ほ〜。…ところで、外から武志や野武志の悲鳴が聞こえるのは俺の気のせいか?」
千「………気のせいだろ。」
  ※その頃の外。
武「ぎゃあああぁぁぁ〜〜〜!!
 武志隊の一人が、烈堂馬虎に追いまわされて走っている。
野「止まって…止まってくれ烈堂馬虎―――――――――ッ!!!!!
 烈堂馬虎の背には野武志が一人しがみついて、必死になだめようとしている。先程、今追いかけられている武志が転んだ拍子に烈堂馬虎に水をぶちまけてしまい、怒った烈堂馬虎が暴れだしたのだった。

ざ「美味いっスねぇアニキ…じゃなかった大将軍様!」
 ざくれろが、その大きい口いっぱいに食べ物を詰め込みながら、器用に喋っている。
大「ははは。ざくれろ、相変わらずいい食いっぷりだな。」
 相変わらずのそのざくれろの様子を見、笑いながら大将軍が言った。
剣「でも、食いすぎには注意しろよ!」
ざ「大丈夫や剣聖はん、心配には及びま…うぐっっ!!
大「うわ、ざくれろが倒れた!! 喉に詰まらせたのか!?」
剣「隠密! 水貸せ水!!」
隠「あいわかった!」

 一方で、飛駆鳥と舞威丸が兄弟仲良く話している。
飛「人が集まると楽しいなぁ、舞威丸!」
舞「そうですね。」
飛「これから、ここの皆を中心に天宮を納めていくんだ。俺…いや、私も頑張らねばな。」
 マジメな顔で、飛駆鳥が言った。
舞「兄上」
飛「何だ舞威丸?」
舞「無理して『私』って言わない方がいいかも。似合わないヨ。
飛「…………。」

 たまたま席が隣になったのもあって、百式と鉄斗羅も忍び同士会話が弾んでいた。
鉄「百式殿もそれがしと同じ、忍びだったな。」
百「あぁ。無期限の修行の旅とかに出されてしまったがな。」
鉄「…終わったのか?」
百「グッ…!!」
 …百式は、汗びっしょりになり黙り込んだ。そしてしばし間を置き、自ら話題を切り替えた。
百「そういえば鉄斗羅、おぬしは元闇軍団の牙忍だったな。」
鉄「ああ。百式殿とは大将軍列伝の時にも会ったかな。」
百「…作品名出しちゃダメだろう……」
鉄「…し、しまった…面目ない…」

 こちらでは、剣聖副将軍の息子・羽荒斗と、隠密副将軍の息子・彗月(=武零斗)が話していた。
羽「彗月、お前武零斗忍軍に入ったんだってな。」
彗「あぁ。お頭が、拙者に才能があるとか何とか…」
羽「将来有望じゃないか。忍軍の次期頭領はお前か?」
彗「はは、まさか。」
羽「…いいよなぁ。私も誰かに日頃の努力を認めてもらいたいものだな。」
彗「羽荒斗、お前ならきっと拙者よりも大物になるさ。」
羽「嬉しい事言ってくれるじゃないか。ま、我々も飛駆鳥のように…お互い頑張ろうな。」
 そして二人は、互いにうなずいた。

獣「あ!!」
 急に、荒鬼の卓上を見て獣王が声を上げた。
荒「ん? どうしたんだ獣王?」
獣「荒鬼、お主しいたけを残しているではないか!」
 荒鬼の皿の上には、丁寧に取り除かれたしいたけだけが残してあった。
荒「い…いいだろう別に…好き嫌いは誰にでもある。」
獣「だからと言ってしいたけを残す事はないだろう!?」
荒「だからと言ってって…コレだけは昔っから食えんのだ。」
獣「お主、一体しいたけのどこがダメなのだ?」
荒「この味、舌触り……それ以前に、しいたけのあの外見さえも嫌だ。」
獣「そこがいいところだろう。さあ、食え!」
荒「さ、さあって…わぁ、やめろっ! 口元に持ってくるなっ!!」
 嫌がる荒鬼をよそに、獣王は先程まで荒鬼の残していたしいたけをハシでつまんで近づけた。
荒「うぎゃあ――――ッ!! や、やめろ! やめてくれェ―――ッ!!」
 荒鬼は柄にもないような悲鳴をあげて、室内を逃げ回った。
百「ん?」
鉄「何事だ?」
 二人の様子に、いち早く百式と鉄斗羅が気付いた。
百「一体何事?」
荒「たッ…助けてくれ百式殿っ!! 獣王がっ…獣王が俺に〜〜〜ッ!!」
 混乱しかけている荒鬼が、そう言いながら百式を盾にその後ろに隠れた。鉄斗羅も百式も、その慌てぶりに驚く。
獣「鉄斗羅殿、百式殿! 荒鬼を引き渡してください!」
 獣王が、百式の後ろの荒鬼を指差していた。その片手にはまだハシが握られ、しいたけがつまんである。
鉄「何をやっているのかは知らんが、あの荒鬼が本気で拒否しているではないか。よしたらどうだ?」
 鉄斗羅が百式(荒鬼)と獣王の間に入り、言った。
獣「荒鬼がしいたけを残すからだっ!」
鉄「まぁそう熱くなるな。」
百「しいたけ、美味いと思うけどなぁ…。
 百式がぼそりとそう言ったので、獣王の目が輝いた。
獣「そうだよなっ! 百式殿はしいたけの良さが分かっている!!」
百「はァ…」
鉄「百式殿っ…余計な事を――ッ!!
 このままでは荒鬼がいじめられているも同然になってしまうと思い、鉄斗羅はあせった。
天「おーい、何やってんだ―?」
 騒いでいるのを見つけ、天地が側に寄ってきた。
爆「どうした?」
千「ケンカは良くないぞ!」
 更に、爆流と千力までも。鉄斗羅は新たにやってきた三人に、自分の分かる範囲で事情を説明した。
爆「ほ〜う…」
千「荒鬼のしいたけ嫌いで言い争いねぇ…」
天「キノコなら、俺様はやっぱりマツタケだぜ!!」
鉄「!!!」
 天地が更に余計な口出しをした、鉄斗羅はそう直感した。そして、その直感は当たっていたのだ。
獣「何を言うか。キノコなら、庶民も手軽に味わえるしいたけに限るだろう!」
荒「…マツタケなら食えるぞ。」
爆「俺はしいたけの方が好きだなぁ。」
 ピシッ…
 そんな音を立てたかのように、しいたけ好きとマツタケ好きにその場の雰囲気が二分された。
千「ああもう、よせよみんな! せっかくの食事会が…それに好き嫌いは個人の問題であって…」
剣「キノコと言ったらマツタケだと思うがな。」
 急に剣聖までもが口を挟んできた。
隠「いや、それがしはしいたけの方が。」
 それにつられたか、隠密もやってくる。話はだんだんと大きくなっていき、千力や鉄斗羅では押さえようもなかった。
天「ぜ―――ったいマツタケだねっ!!」
獣「庶民に愛されるしいたけがっ」
荒「しいたけはさすがに食えん…」
百「マツタケだって高いじゃないか。」
剣「だが美味いものは美味いぞ。」
隠「美味さならしいたけとて引けをとらん!」
鉄「滅多に食べられないからこそマツタケはいいと思うぞ!!」
 ヤケになったか、鉄斗羅まで会話に加わった。千力は、深い深いため息をつく。
千「…何で…何でこうなるんだ…?」
彗「ち、父上…」
羽「何やってるんだか…」
 騒ぎを聞き、他の者達もその場へ集まってきた。広いその部屋は一部だけ密度が高まっていた。
彗「千力殿も大変ですね。」
羽「同情しますよ…」
千「ははは………はあァ…」
天「マツタケ!!」
獣「しいたけだっ!!」
飛「俺はマツタケ。」
大「私もだな。」
ざ「わいは、安くてたくさん食えるからしいたけや〜!」
 ついに大将軍と飛駆鳥、更にざくれろまでもが首を突っ込んだ。彗月・羽荒斗はなんとなく顔を見合わせた。
彗「羽荒斗、どう思う?」
羽「私はマツタケだな。」
彗「え?」
羽「彗月、お前は?」
彗「え、あ、…しいたけ、の方が好きだが…」
羽「…敵。」
彗「…そうじゃなくて…。」
千「はああぁぁぁ…」

雷「全く…いつまでやっているつもりなのでしょうね…。」
 少し離れたところから、雷鳴が言った。
舞「全くですね。兄上や父上まで混ざっていっちゃうなんて。」
 同じく離れたところにいる舞威丸が、雷鳴に同意した。
雷「ちなみに舞威丸、せっかくですから聞きますが、あなたはどちら?」
舞「僕は栄養のあるしいたけの方がいいですね。」
雷「そうですか? 私はマツタケのあの高貴な香りが好きですが。」
舞「…栄養は重視すべきです。」
雷「…食事には雰囲気も大事なのですよ。」
舞「…。」
雷「…。」
 二人の間に、静かな火花が散った。

轟「すっかり遅くなってしまったな。」
 轟天・魔星兄弟が、二人で烈帝城の廊下を歩いている。向かう先はもちろん、先に大将軍らが集まっている部屋だ。
魔「兄上が腰が痛むって言うから……大丈夫なんでしょうね?」
轟「ははは…さっきはすまなかったな。もう大丈夫だ。」
魔「全く…もう年なんだから、無理して烈堂馬虎に向かっていかないでくれよ。」
轟「全くもって申し訳ない。だがあの武志や野武志をほうっておけんかったからなァ。」
魔「とにかく、早く部屋へ向かいましょう……ん? 何だか部屋が騒がしい気が…」
 部屋にだいぶ近づいたところで、部屋の中で皆が騒いでいる事に魔星は気付いた。
轟「…本当だな。何かあったのか?」
魔「分からん。とにかく入ってみよう。」
 魔星は、ガラッ!と勢いよく戸をあけた。
 開いた戸の先、魔星と轟天の目に映ったのは、その場にいる全員が言い争うさまだった。
魔「…な、何事だ…?」
千「やぁ…轟天殿…魔星殿…
轟「わあっ!?
魔「な…ちょ…超将軍の千力か。驚かすな!」
 二人が戸を開けたすぐ近くに、この上ないくらいに落ち込んだ千力がしゃがんでいたのだ。
魔「……何があったんだコレは…」
 千力は、あの後言い争う皆を止めようとしたのだが相手にされず、「引っ込んでろ」とか「邪魔だ」とかさんざん言われて、すっかり落ち込んでしまったのだ。轟天は落ち込んでいる千力をなぐさめながら、やっとの事で事情を聞き出した。
魔「…つまり…キノコの好みひとつであの騒ぎ…大将軍や副将軍まで入って…。」
 千力はコクリとうなづいた。
轟「…若いもんはなかなか熱いのぅ。」
魔「んな事言っとる場合かっ……
 全員そこになおれええェッ!!!!!

 魔星の大声にその場にいる全員が驚き、一気に部屋は静まり返った。

 とりあえず、キノコに関する言い争いは、副将軍・魔星の地位関係なしの説教で片付けられた。そして食事会は再開される……

天「烈帝城の食事は何食っても美味いな!」
ざ「全く、最高やな!」
百「ざくれろ、お前さすがに食いすぎだろー。」
獣「大自然にかんぱ―――――いっ!!」
雷「獣王…だいぶ酔っているようですね…。」
爆「…ったく、兄上と来たらこの前勝手に俺の魂嵐弾亜を…」
千「ははは、大牙のことだな。あいつらしいや!」
鉄「あれ? 荒鬼、しいたけ食べれるようになったのか?」
荒「……。」
隠「ぎゃ―――ッはっはっはっはっは!! じゃんじゃん持ってこ――い!!」
剣「こっちにも酒くれー!」
轟「じゃ、ワシも…」
魔「兄上、あんまり飲み過ぎないように。」
大「みんな、今日は存分に食べ、存分に飲んでくれよー!」
彗「…それって…拙者らもなのだろうか…? 『飲め』って辺り…
羽「まさか。」
飛「舞威丸―、お前も飲め――!!」
舞「あ、いや僕は…」
 …烈帝城の夜は、今日も平和にふけてゆく……



以上、烈帝城でのドタバタ騒ぎ?でした。(笑)
元はにくきゅうさんのホームページ・戌小屋(リンク集参照)でのSD掲示板でしいたけに関する話がやや盛り上がったから。
あの掲示板で話に加わった人がこの話に満足するかは分かりませんが、私としてはこんな感じかな、と。
補足しておくと、この時の魔星はまだ悪に染まってないって事にしてください。(おい)
魔星轟天が好きだから出したかったんです…。
それと、風車の百式うっかりざくれろもせっかくなので出してみました。
隠密副将軍は酔うと人柄が変わるらしいけど、実際は一体どんなもんなんでしょうねぇ。


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