キリ番1441・じいむうさん 「SD戦国伝の小説(悪役を多く出して、魔界の日常)」
闇元帥 魔界日記
俺の名は頑駄無闇元帥。かつて地上を闇に閉ざそうとしたが、輝神大将軍獅龍凰とか言う奴に惜しくも敗れたのだ。ああ、あいつのことはいつ思い出しても腹が立つ…!!
その後俺は、気付いた時には魔界に蘇生されていた。どうも魔界の王の仕業らしい。しかも、蘇生されたのは俺に限らず、今まで地上で敗れてきた闇の者達大勢もそうされたようだ。
魔界の王は、どうも俺たちにいつか再び地上征服をさせる為に、こんなことをしたと言っていた。…まァ、今のところは魔界で自らの力を高めるってことで、誰一人地上征服に行ってはいないがな。
とりあえず、俺たちは地上征服に向けて本格的に動き出すまでは、魔界にあるひとつの町で生活している。
しかし今、俺は魔界での生活で少し悩んでいた。こんなことを言ったら笑うかも知れんが…俺はこの町で一番近所付き合いが悪いと言われている。……お前、今本当に笑わなかったか?
別に魔界なんだから近所づきあいなんて関係ないと思うかも知れねェが、この先もしかしたら団結でもしなけりゃ地上相手には勝てないだろう。向こうもそれなりに力がついてきているからな。だからこそ、俺よりも過去・未来の時に地上を攻めた連中を知っておく必要があるんだ。
だが……俺の近所に住んでいる連中は…特異なことこの上ない連中なのだ。
で、その中でまず何よりも最初に問題なのが、俺の家の右隣に住む奴なんだが……ん? あ、ちょっと待て、誰か訪ねて来たみたいだ。しかし、戸を叩く音が妙にバカデカい気が……まさか、向かいの家に住むあいつか…?
「あー、うるせえなっ! 今出るから待てっ!!」
俺は、戸の向こうにいるであろう奴に向かって大声で言った。が、聞こえていないのか、まだガンガンと戸を叩いている。
「何の用だっ!?」
俺は勢いよく戸をあけた。が、相手は俺が戸をあけたのに気付かず、そのまま戸を叩くつもりで俺のことを思いっきり叩いた。俺はその巨大な右手に強打され、部屋の壁に叩きつけられた。
「…あ、もう開けてたのか、いやぁ悪ぃ悪ぃ。」
俺を吹っ飛ばしてからもう一度戸を叩こうとしたがそこに何の感触もなかったことに気づき、そいつは必要以上の大声で俺に言った。
「…て…テメェッ……『悪ぃ』で済むと思ってんのかこのデク人形ッ…!!」
俺の家を訪ねてきたのは、自称真紅の巨人…俺の言うとまと色の巨大デク人形…覇道武者魔殺駆だ。そしてコイツの用件はいつも決まっている……
「いやあ、ほんっとに悪かった。ところで闇元帥、友として頼む、食料を恵んでくれ!」
あぁ、やっぱり……俺はコイツなんかと友人になった覚えなんてないのに……恵んでやらないと家を踏み潰そうとするし………仕方なく俺は、家にあった魔界野菜と魔獣の干し肉を半分ほど与え、帰らせた。はぁ……俺の三日分の食事が…。
そうそう、家といえば、魔殺駆の家は魔界一のある記録を持っている。いわゆる「ぎねす」ってやつだな。魔殺駆は魔界で真紅の巨人と 言われ ……自称しているが、それだけに普通の家では生活どころか中に入る事すらできない。そこでコイツの家は、異常なほどの高さを誇っている。魔界の城に比べりゃあ若干低いが、「家」としては最高峰だ。もう「ちょうこうそうびる」も「とうきょうたわー」も目じゃねェ。だが、それでも魔殺駆の奴は室内で、直立するか、足を抱えて座るか、それくらいしかできないらしいが。
…さて、さっきはどこまで話したか……あぁそうだ、俺の家の右隣にすむ奴の話だったな。そいつの名は闇魔神吏偶遮光……やつのことを知っていれば何が問題なのかは想像がつくだろうが…俺が奴と上手く付き合えない理由…それは……俺と奴は本来同一人物であるからだ。正確に言うと魂が同じ、ということなんだが。
とにかく、どうも魔界の王の手違いらしいく、俺と吏偶遮光はこの魔界に、別人物として蘇生されてしまったのだ。
…別に問題がない、とでも言いたそうだな。だが、考えてもみろ。吏偶遮光…いや、闇魔神というべきか。闇魔神の魂が「お麗」という巫女に取り付き、更に武羅星を取り込んで生まれたのがこの俺だ。つまりあいつはいわゆる過去の俺…… 過去のお前が、今のお前の隣に引っ越してきてみろ! …現実的・非現実的に関係なく、お前は困るだろう。今の俺の状況はそれだ。
情けない話だが、俺は極力吏偶遮光と顔をあわせないように生活している。正直、俺は会うのが怖いんだろう。
…そういや、さっき魔殺駆にくれちまった分の食料、買いに行っとく必要があるな…。
そう言う訳で、やってきたのは食料店。まァ食料店って言っても、八百屋(=魔界野菜売り場)、魚(?)屋、(魔獣の)肉屋と別々にあるけどな。
「さっきなくなったのは野菜と肉だったか。」
俺は店を見回した。今日は特売とかはないらしい。じゃ、とりあえず一番安そうなやつを探すか………って、何か、主婦みたいで嫌だな。
「お、闇元帥じゃないか!」
八百屋の方で誰かが俺を呼んだ。振り返ってみると、そこにいたのは真っ赤な鎧をまとった男だ。左肩には鳥のような守護獣を乗せている。魔界武者・魔刃頑駄無の複製人間【クローン】四人衆の一人、鳳凰だ。
「…お前、何で八百屋で客寄せの格好してるんだ?」
俺は鳳凰の格好を見るなりすぐに問い掛けた。鳳凰は、確かに鎧を着て肩に守護獣を乗せてはいるんだが、首から『毎日が特売!』と書かれた八百屋の看板をさげている。明らかに不似合いだ。
「あー、いや、今ちょうどヒマなもんでな、四人総出で小遣い稼ぎしてるんだ。俺は見ての通り八百屋の手伝い! まァそう言う訳で、どうだ? 今なら地上産のものと全く同じ品種の、メロンとスイカがあるぜ!」
鳳凰はそう言って、近くに置いてあったメロンとスイカを自慢げに見せた。が、そのスイカとメロンには明らかに、地上の物には有り得ない触手がうねうねと動いている。
「こっ……これは……ッ!?」
俺は流石に、その奇妙…いや、むしろ不気味なメロンとスイカを見、思わず後ずさりをしてしまった。収穫されて尚うねうねと動き続けるその触手は、何か養分になる物を求めているかのようにあたりを探ろうとしているようだった。
「何でも、ここの店の主人が言うに、地上からスイカとメロンの種を持ってきて、魔界で栽培しているそうだ。俺は今日始めて見たんだがな。」
鳳凰は割とのん気にそんなことを言っているが、触手はついに鳳凰の腕に巻きつき始めた。しかも、スイカとメロン、両方。
「ほっ…ほほほ鳳凰ッ!! 腕! 腕ッ!!」
俺は、思わず鳳凰の腕の方を指差してそう言った。自分の声が震えているのが分かった。
「…腕? ………ギャ―――――――――ッ!!」
鳳凰は腕を見るや否や、叫びながらメロンとスイカの触手を振り払った。だが触手は鳳凰に狙いを定めたように伸びてきて、再び巻きつこうとする。
「うぎゃああぁぁぁ――――ッ!! まっ…魔刃さまあぁぁ―――ッ!!!」
俺は、スイカとメロンに追われ逃げまどう鳳凰を、黙って見ているしかなかった。
「………見なかったことにしよう。」
俺はぼそりとそう言い、肉屋へ向かった。
肉屋に行くと、今度は青い鎧を着、左肩に竜型の守護獣を乗せている奴が店番をやっている。鳳凰の色違い…つまり、コイツも魔刃頑駄無の複製人間…名は蒼龍と言う。鳳凰が四人総出で小遣い稼ぎをしていると言ったが、間違いないようだ。
「いらっしゃいませ。何かお入用で?」
蒼龍は俺が来たのに気付き、声をかけてきた。鳳凰に比べてこいつは態度が事務的だな。
「魔獣の肉をくれ。干し肉と生肉なら、どっちが安い?」
俺は手短に用件を言った。とりあえず、また魔殺駆が食料を奪いに来た時のことを考え、金は節約することにした。できれば保存のきく干し肉が欲しいが、生肉を自分で干す手もある。
「生肉のほうが安いな。ここの店主は面倒臭がりで、干し肉を作るのは嫌いだから。今取ってくる。」
そう言って蒼龍は店の奥へ入っていった。
……取ってくる?
ふと、俺は蒼龍の言ったことに疑問を感じた。店頭を見ると、そこにあるのは干し肉や調理済みの肉が多い。やはり、生肉は痛みやすいから奥にしまってあるのだろうか?
「待たせた。」
ちょっと考えていると、蒼龍は肉を取って戻ってきたようだ。
「おう、わざわざすまな…………!?!?」
俺は戻ってきた蒼龍を見、目を疑った。蒼龍の手には、魔獣一匹が丸々と乗っていた。しかも明らかにとりたて、といった感じで狩りをするのに使ったと思われる矢がそのまま刺さっていた。
「今朝とりたてだそうだ。毒は使ってないから安心しろ。」
安心できるか――――ッ!!
俺は心の中でそう叫んだ。だが、この際仕方ないと思い、その肉を買って、そのまま家まで引きずって帰る事にした。
「……切り身もあったんだけどな…。」
俺が帰った後、蒼龍がぼそりとそう言ったということは、後から知った。
無駄遣い防止のため(笑)、俺はさっさと自宅に戻ってきた。まァ、肉が重いから、ということもあるんだが。しかし、俺は玄関先で思わぬ奴に出会ってしまった。
「何だ闇元帥、その魔獣の死体は…」
俺のお隣さん……そう、吏偶遮光だ。今まで接触を避けてきただけに、俺はギョッとした。
「あー、いや、これは―――……まァ…」
「…おおかた、蒼龍が今日働いていた肉屋でも行ったんだろう? お前以外でも似たようなことをしている奴を見かけたぞ。」
「……いるんだ。」
そこまで対話をし、吏偶遮光はどこかへ行ってしまった。
今まで接触を避けてきたが、向こうはどうも別人物と割り切ってるようだな。…今まで無駄な心配と苦労を重ねてたのは俺だけってことか。
俺は、自分の家の中に入った。
………何かがおかしい………。
俺は自宅に入ってすぐ、部屋に違和感を覚えた。家具の位置が違う。開けた覚えのない戸棚が開いている。
「………やられた………!!」
泥棒だ。
俺はそう思い、愕然とした。魔界は、当然俺たちのように蘇生された者だけがいるわけではない。そして元々魔界に住んでいた者の中には、当然こそ泥なんかもいるはずだ。まんまとやられてしまったようだった。
「畜生…俺とした事が…一体何が盗まれたんだ?」
まずは被害状況の確認でもしようと、俺は戸棚の中を覗き込む。…が、そこも何かおかしい。
「……開けられた、だけ?」
戸棚の中に決して金目の物がなかったわけではない。だが、本当に何も盗まれていないのだ。あえて言えば、戸棚の扉に、鋭い爪で引っかいたような妙な傷跡があるくらいである。
「何なんだよ一体…!?」
更に、部屋の各所も調べてみたのだが、家具が無理矢理どかされているだけ、といった感じで何も盗まれていない。困惑した。
がしゃっ……
ふと、家の奥で物音がした。まだ犯人がいるのかも知れない。俺の家に無断で侵入する輩に一泡吹かせてやる!
俺は足音を忍ばせ、奥の部屋の入り口に近づいた。そしてそっと中をのぞき見る。……何で俺がこんなにこそこそしてるかって? 生粋の魔界の者なら、俺よりも強い可能性があるからさ。まァ、強かろうが何だろうが、タダでおくつもりはないが。
俺がきちんと中を見る前に、急に雄叫びがした。……少し聞きおぼえのある雄叫びだ。
右隣に誰かが住んでいれば、角の方に住んでいない限り左隣にも誰か住んでいるはずだろう? その、吏偶遮光とは反対側の家から、夜な夜な聞こえてくる雄叫び…。そして、俺はその雄叫びの主を知っている。あぁ、また聞こえてきた…。
「グワ〜〜〜ラ! 我こそは闇皇帝なるぞ!!」
「ギャッスラ――――! 我が名は黒魔神!!」
「グワ〜ラ〜シャキシャキ!! 我は黒魔神闇皇帝なり!」
……左隣の家は、近所では『闇の三権化屋敷』と呼ばれている。闇皇帝、黒魔神、黒魔神闇皇帝の三人…いや、三体が住んで(棲んで)いて、その上夜な夜なこんな感じの雄叫びをあげているからだ。
「な……何でこいつらが俺の家の中に入ってるんだ?? …いや、その前に、あの大きさで一体どうやって入ったんだ!?」
俺は呆然とその三体を見た。倒す、という事で考えると、三対一である上に体の大きさに違いがありすぎ、分が悪い…だがそれ以前に、先程思わず口に出してしまったとおり、あいつらが俺の家に侵入してきた理由が分からない。
俺は呆然としつつも頭の半分ほどを使って侵入の理由を考えていたが、ふと、酒の匂いが漂ってきた。……雄叫びの聞こえる方から…。
……奴らは酔っているらしい……。
「……どうするか、この状況……。」
数分の間、俺は闇の三権化を前に立ち尽くしていたわけだが、流石に俺の家かあの雄叫びが聞こえるんで、おかしいと思った連中が駆けつけてきた。来たのは、最近は割と近所に住んでいる魔刃とその複製人間四人衆、そしてあの後自宅に帰ってきたらしい吏偶遮光だ。
「闇元帥、何事だ!?」
最初に家の中に入ってきたのは魔刃だ。しかし、魔刃もこの状況を見てア然としたらしい。ぞろぞろと残りの五人も入ってきたが、反応は魔刃と同じだった。
「………。闇元帥、率直に聞くぞ。こいつらどうしてほしい?」
魔刃はハッと我にかえり、俺に問い掛けた。俺の返事は決まっている。
「……追い出すから協力してくれ。」
その後はあっという間だ。全員で最強奥義をぶちかましてやった。
「ぐぎゃ―――――っ!!」
三体は、強烈な攻撃を何発もくらい、叫び声を上げて自宅の方へと逃げ帰っていった。
……逃げる三体の後を、見覚えのあるメロンとスイカが追いかけていった気がするんだが…………まァ、いいか。
「全く…入るときも入るときだが、逃げる時も逃げる時だな…。」
魔刃の複製人間の一人、銀色の鎧をまとった男・玄武がそう言った。
「あぁ…」
同じく魔刃の複製人間で、紫の鎧の白虎が玄武の横でうなずく。そして、全員がほぼ同時に同じことをつぶやいた。
「どうやって出入りしたんだろう………」
今日は何だか色々あったが、とりあえずは無事一日も終わったことだし、よしとしておこう、うん。
あの後闇の三権化がお詫びにと言って八百屋で鳳凰がからまれていたスイカとメロンを持ってきたとか、魔殺駆が今日買った魔獣の生肉を半分持っていったとか、そういう事は気にしないで置くほうがいいんだ、きっと!
……
…明日は、もう少しマシな一日であってくれ…。